日本のシャインマスカットが日本国外で無許可栽培されており、そのために本来日本が得られていただろう利益が失われていることを聞いたことはありませんか。日本の農家の栽培技術が高いことも相まって、日本の果物は海外で高い評価を得ています。その評価が上がるにつれ、日本で開発された品種がいつの間にか海外で栽培されていることを聞くようになりました。
シャインマスカットは農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)というところで約30年の年月をかけて開発されました。商品の開発には時間、労力、そして資金が必要ですが、費やした資金が回収できなければ誰も新しい商品を開発しようとしなくなります。これは、栽培植物の品種でも同じです。
そこで、作物の新品種の開発(育種)を促すことを究極的な目的として、作物の新品種の開発者(育成者)の権利を保護する制度が制定されました。
新品種を護る三制度
新品種の育成には専門知識、技術に加えて多大な時間、労力、資金が必要であるにもかかわらず、一旦育成された品種は自家増殖が可能である場合が多く、開発者の権利(育成者権といいます)が容易に侵害される可能性があります。現在の日本では新品種と新品種の育成者の権利保護に以下の三制度を活用できます。
- 品種登録制度:品種と品種名が本制度の対象です
- 商標制度:新開発品種の種苗又は収穫物を業として譲渡する際に使用するそれらの名称が本制度の対象です
- 特許制度:例えば、新開発品種を栽培するための栽培技術や新開発品種を識別するための遺伝子マーカー等の発明が本制度の対象です
特許制度と品種登録制度の違い
特許制度では、新品種について特許を取得しようとする場合、その新品種が既存の品種から容易に作製することができないという「進歩性」を有していることが求められます。例えば、Aという性質を持つ植物体とBという性質を持つ植物体を交配して得られたABという両方の性質を有する植物体は、このような交配から得られることが予測できるため、進歩性が無いという主張で特許が否定される可能性があります。
特許制度では「創作性」も要件になります。例えば、栽培していた植物の集団の中からXという性質を持つ個体を見つけ出し、この個体を増殖させてこのXという性質を持つ品種を確立した場合、最初にこのXという性質を持つ植物体を偶然に見つけ出したのに過ぎないため、単なる「発見」であるとして特許が否定される可能性もあります。
特許制度で求められるこれらの要件は、品種登録制度では要件とされません。すなわち、特許制度では新規発明として認められない新品種が品種登録制度では新品種として認められる可能性があります。
品種登録制度における育成者権の効力
品種登録を受けると、登録品種を業として独占的に利用できるようになり、また、専用利用権や通常利用権を設定して他人に登録品種を利用させることもできます。育成者権を侵害された場合には差止や損害賠償を請求することが可能になります。育成者権の存続期間は果樹や観賞樹等については30年、それ以外の植物については25年です。
品種登録までの流れ
出願から品種登録までの流れは以下のようになっています。
- 出願
- 審査で必要な全ての形質の特性を記載した「特性表」等を願書に添付して出願します。意図しない国外への持ち出しを制限する「海外持出制限」と意図しない国内での栽培を制限する「栽培地域制限」の届出を出願と同時にすることができます。出願料納付が必要です。
- 出願公表
- 当該品種が出願中であることが公示されます。
- 仮保護
- 出願から品種登録まで2~3年の審査期間を要します。この間にも出願者に一定の保護が与えられます。出願者は、仮保護期間中に出願品種の種苗等の生産・譲渡や海外持出制限の届出に反して輸出を行った者に対して、品種登録後、利用料相当額の補償金の請求ができます。
- 審査
- 植物の特性審査が栽培試験又は現地調査によって行われます。審査手数料の納付が必要です。
- 審査特性の通知
- 登録要件を満たすと判断された場合、出願者に対し、登録簿に記載される品種の特性を記録した特性表が通知されます。出願者は、通知された特性表について訂正を求めることができます。
- 登録
- 登録料の納付が必要です。
本記事はここまでです。次回は種苗法について説明します。