以前の記事「ペットフードの会社を始めるには」において、ジビエ肉をペットフードの原料にするときにはHACCPの考え方に基づいて衛生管理を行っている処理施設から原料の肉を仕入れた方がよいと説明しました。そこですぐにでもHACCPを説明したいところですが、平成30年の食品衛生法の改正によりHACCPはジビエ肉の処理施設だけでなく、あらゆる食品事業に取り入れることになったため、この記事では食品事業を開業する際に必要な許可申請又は届出について説明します。
私達が口にする食品の安全性を確保するため、食品事業者には食品衛生法に基づく許可申請又は届出をすることが求められています。食品衛生責任者有資格者である行政書士が、飲食店・小規模食品事業の営業許可取得を支援いたします。
許可申請又は届出が必要な食品事業
平成30年(2018年)6月に食品衛生法が改正され、令和3年(2021年)6月から営業許可制度が変更になり、32種類の許可業種とその他の届出業種が創設されました。これらの業種については下のリストをご覧ください。
許可業種
- 飲食店営業
- 調理の機能を有する自動販売機により食品を調理し、調理された食品を販売する営業
- 食肉販売業(未包装品の販売)
- 魚介類販売業(未包装品の販売)
- 魚介類競り売り営業
- 集乳業
- 乳処理業
- 特別牛乳搾取処理業
- 食肉処理業
- 食品の放射線照射業
- 菓子製造業
- アイスクリーム類製造業
- 乳製品製造業
- 清涼飲料水製造業
- 食肉製品製造業
- 水産製品製造業
- 氷雪製造業
- 液卵製造業
- 食用油脂製造業
- みそ又はしょうゆ製造業
- 酒類製造業
- 豆腐製造業
- 納豆製造業
- 麺類製造業
- そうざい製造業
- 複合型そうざい製造業
- 冷凍食品製造業
- 複合型冷凍食品製造業
- 漬物製造業
- 密封包装食品製造業
- 食品の小分け業
- 添加物製造業
届出業種
「販売業」の例
- 食肉販売業(包装品の販売)
- 魚介類販売業(包装品の販売)
- 弁当販売業
- 米穀類販売業
- 野菜果物販売業
- 乳類販売業
- 氷雪販売業
- その他の食料・飲料販売業
「製造・加工業」の例
- 農産保存食料品製造・加工業
- コーヒー製造・加工業
- 精穀・製粉業
- 調味料製造・加工業
- 製茶業
- その他の食品の製造・加工業
- 卵選別包装業
- 合成樹脂を使用する器具・容器包装の製造・加工業
「調理業」の例
- 集団給食施設(委託給食の場合を除く)
- 仮設店舗等における飲食の提供のうち、営業とみなされないもの
- 調理機能を有する自動販売機(屋内設置型)
届出不要な業種
- 食品・添加物の輸入業
- 食品・添加物の運搬業・貯蔵業(食品の冷凍・冷蔵業を除く)
- 常温で長期保存可能な包装された食品・添加物の販売業
- 器具・容器包装の製造業(合成樹脂以外の原材料が使用された器具・容器包装に限る)
- 器具・容器包装の輸入業・販売業
食品事業営業許可申請
営業許可を受けるための要件
食品を調理、加工製造、処理し、販売するには事業所の住所を所轄する保健所に営業許可申請を行い、基準に合致した施設を造り、営業許可を受けることが必要です。食品事業の営業許可を申請するには幾つかの要件があります。
人的要件
事業者に関する要件
個人営業の場合には事業主が、法人の場合には業務を行う役員が次の事由に該当していないことが求められます。
(1)食品衛生法又は食品衛生法に基づく処分に違反して刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日から起算して2年を経過しない者。
(2)食品衛生法第59条から第61条までの規定により許可を取り消され、その取消しの日から起算して2年を経過しない者。
事業者以外の人的要件
- 食品衛生責任者(栄養士、調理師、製菓衛生士等の他、医学、歯学、薬学、獣医学、畜産学、水産学、農芸化学の過程を修めて卒業した者、又は都道府県知事等が適正と認める講習会の受講修了者)
- 防火管理者(スタッフを含めて30人以上を収容できる飲食店を予定している場合、消防署で防火管理講習を受けることで防火管理者になることができます。防火管理者には甲種と乙種があり、店舗の延べ床面積が300平方メートル以上と未満とで必要な種類が異なります。お店の将来計画に応じて選択されるとよいと思われます。)
乳製品製造業、食肉製品製造業、食品の放射線照射業、及び食用油脂製造業には食品衛生管理者の設置が義務付けられています。
財産的要件
食品衛生法上の許可を取得するのに必要な財産的要件はありません(お金が無くても食品事業を始められるという意味ではありません)。
物的要件
開業地域
私達が住んでいる街は都市計画に応じて幾つかの地域に分けられており、これらの地域を用途地域と呼びます。私たちが営むことができる事業は都市計画によって用途地域ごとに決められています。
弁当屋、総菜店、パン屋等、及び食品工場に係る用途地域の制限
東京都の場合、例えば弁当屋・総菜店やパン屋の開業は、大まかには、第二種低層住居専用地域、田園住居地域、及び第一種・第二種中高層住居専用地域では条件付きで認められており、第一種低層専用地域では認められておらず、その他の用途地域では認められています。弁当屋・総菜店やパン屋であっても大規模な工場と呼べるような規模である場合には用途地域の条件が厳しくなります。食品工場の開業は、第一種・第二種低層住居専用地域、第一種・第二種中高層住居専用地域、及び田園住居地域では認められておらず、第一種・第二種住居地域、準住居地域、近隣商業地域、及び商業地域では条件付きで認められており、その他の用途地域では認められています。
弁当屋、総菜店、パン屋等の営業が条件付きで認められる用途地域
第二種低層住居専用地域 | 田園住居地域 | 第一種中高層住居専用地域 | 第二種中高層住居専用地域 | |
---|---|---|---|---|
階数が2以下であって、作業場の床面積が50m2以内である店舗 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
階数が2を超え、作業場の床面積が50m2以内である店舗 | × | × | × | × |
<参考>食品工場*の営業が条件付きで認められる用途地域
第一種住居地域 | 第二種住居地域 | 準住居地域 | 近隣商業地域 | 商業地域 | |
---|---|---|---|---|---|
作業場の床面積が50m2以内である食品工場 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
作業場の床面積が150m2以内である食品工場 | × | × | × | 〇 | 〇 |
作業場の床面積が150m2を超える食品工場 | × | × | × | × | × |
飲食店に係る用途地域の制限
東京都の場合、飲食店の開業は、大まかには、第一種・第二種低層住居専用地域、田園住居地域、及び第一種・第二種中高層住居専用地域では条件付きで認められており、工業専用地域では認められておらず、その他の用途地域では認められています。開業計画の段階で意中の場所がどの用途地域に属しているのか不動産屋に確認することが大事です。
飲食店の営業が条件付きで認められる用途地域
第一種低層住居専用地域 | 第二種低層住居専用地域 | 田園住居地域 | 第一種中高層住居専用地域 | 第二種中高層住居専用地域 | |
---|---|---|---|---|---|
住居との兼用であって、建物の延べ床面積の2分の1未満、且つ、床面積が50m2以下である店舗 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
2階以下であって、延べ床面積が150m2以内である店舗 | × | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
2階以下であって、延べ床面積が500m2以内である店舗 | × | × | ×* | 〇 | 〇 |
延べ床面積が1500m2である店舗 | × | × | × | × | 〇 |
飲食店、弁当屋、及び総菜店の例からわかるように、開業計画の段階で意中の場所がどの用途地域に属しているのか不動産屋に確認し、計画している事業がのその場所で営業可能であるか役所に聞くことが大事です。
施設の構造
開業する店舗の営業施設、食品取扱設備、並びに給水、排水、及び汚物処理設備について細かい要件があります。いずれも食品衛生上の要求に合致するように定められています。ただし、既製品を開封、加温、盛り付けて提供する営業、半製品を焼いたり揚げたりして提供する営業、米飯を炊飯、冷凍パンを焼成する営業、飲料を提供する営業では「簡易な飲食店営業」として基準が緩和されています。
菓子製造業、総菜製造業、食品の小分け業、魚介類販売業、及び食肉販売業等にはそれぞれの特定基準が設けられています。特定基準の詳細については所轄の保健所に問い合わせる必要があります。
飲食店営業許可申請に必要な書類
営業許可申請書 | 各自治体のホームページからダウンロード可能 |
施設の構造及び設備を示す図面 | 店舗の内装工事の設計図等 |
「食品衛生責任者」の資格を証明するもの | 食品衛生責任者手帳や調理師免許、栄養士免許等 |
水質検査成績書 | 井戸水を使用する場合やビルの貯留タンクから水道水が供給されている場合は必要 |
登記事項証明書 | 営業許可申請書に法人番号を記載すれば不要 |
飲食店営業許可申請手数料(東京都の場合)
新規 18,300円
更新* 8,900円
* 令和3年6月1日以前の許可で喫茶店営業の許可を得ていた事業者が新制度へ移行するときの更新手数料は8,200円です。令和3年6月1日以降の制度では喫茶店営業は飲食店営業に含まれます。
営業許可の更新
開業した飲食店が引き続き営業許可を受けようとする場合、営業許可の更新を申請します。この際に営業許可申請書の「HACCPの取組」欄の「HACCPの考えを取り入れた衛生管理」にチェックを入れます。ここで食品事業者に求められることは、事業者自身がHACCPの考え方に沿って衛生管理計画を作成し、その衛生管理計画に基づいて日常的に衛生管理を実施し、そしてその実施の結果を確認・記録することです。
まとめ
今回の記事は、食品に関する事業を始めるときに行う営業の許可申請又は届出を説明しました。食の安全を守るため、食品事業の開業には人的要件と物的要件があります。事業の種類ごとに要件が異なりますので、食品事業の開業を考えている方は出店を予定している場所を管轄する保健所に要件を教えてくれるようにお願いしてみてください。また、既に開業していて営業許可の更新を目指している方にはHACCPの考え方に沿った衛生管理計画の作成が必要です(本来なら、営業許可更新とは無関係に衛生管理計画を作成することが必要です)。HACCPの詳細については次回の記事をご覧ください。