この記事は、ペットが日本以外の国に入国する際にペットに課される要件を、アメリカを例に説明します。日本を出国するまでの手続きについては本ブログの記事「ペットと共に海外移住したいときの準備と手続き」をご覧ください。
アメリカ疾病管理予防センター(CDC)は、2024年8月1日にアメリカに入国できるイヌの要件を変更しました。本記事の「アメリカ全体での入国要件」を2024年8月1日付の要件変更に基づいて変更しました(2024.09.04)。
まず初めに、ペットをどの国へ連れていく場合も、病気のペットを入国させようとすると入国を拒否されることがあります。入国を拒否されたペットはお客様の費用で日本へ送り返されることになります。病気のペットを海外へ連れていくことは絶対にやめましょう。
アメリカ全体での入国要件
アメリカ合衆国は「合州国」であり、州毎に異なる規制が存在する場合があります。アメリカ全体のレベルでは、口蹄疫、ラセンウジバエの寄生、狂犬病が問題となっている国からアメリカに入国するペットについては獣医師による証明書が必要とされています。日本の国外に出たことが無いペットについてはこれらの病気について心配する必要はありません。まず、アメリカ全体での規制を紹介します。
アメリカ全体での規制については、アメリカ農務省(USDA)とアメリカ疾病管理予防センター(CDC)が管理しています。ペット(愛玩用)としての犬猫の入国は、USDAではなくCDCによって管理されています。
イヌの場合
低リスク国で生育した場合
アメリカ国内に持ち込もうとしている犬が、生まれてから日本国外へ出国したことがない、又はアメリカに入国する直前6か月以内に日本又は狂犬病のリスクが低い国に在留していたペットの犬である場合、アメリカのCDCはその犬がアメリカに入国する際にCDC Dog Import Formをオンラインで提出することを2024年8月1日よりアメリカ入国の要件としました。CDC Dog Import Formの記入についてはこちらの記事をご覧ください。
これまでISO適格マイクロチップの装着は、狂犬病の低リスク国出身の犬について免除されていましたが、2024年8月1日より全ての犬についてISO適格マイクロチップの装着が適用されるようになりました。また、アメリカに持ち込める犬の月齢は6か月齢以上であることを要します。
アメリカに到着したらCDC Dog Import Formの受取書をプリントしたもの又はスマートフォンなどのデバイスに表示して税関職員にこれを提示してアメリカに入国することができます。
低リスク国からアメリカに入国するときは狂犬病予防接種証明書(英文)とマイクロチップ装着証明書(英文)の提出が求められていませんが、アメリカの州によっては狂犬病予防接種証明書(英文)とマイクロチップ装着証明書(英文)の提出が求められる可能性があるため、用意しておくとよいでしょう。
高リスク国での滞在歴がある場合
アメリカ国内に持ち込もうとしている犬が、狂犬病のリスクが高い国で生育した犬である、又は狂犬病のリスクが低い国で生育した犬であるが、アメリカに入国する6か月以内に狂犬病の高リスク国に滞在していた犬であるとき、その犬をアメリカ国内に持ち込むための要件が厳しくなります。この場合に求められる要件を以下に示します。
- アメリカに持ち込む犬は、アメリカ到着時に健康であること
- アメリカに持ち込む犬は、アメリカ到着時に6か月齢以上であること
- アメリカに持ち込む犬は、ISO適格マイクロチップを装着していること
- アメリカに持ち込む犬は、マイクロチップ装着後に(不活化ワクチン又は組換えワクチンによる)狂犬病予防接種を受けていること
- アメリカに持ち込む犬は、狂犬病予防接種を受けてから早くとも30日後にCDCが認証する臨床検査所(日本の場合、一般財団法人生物科学安全研究所)で狂犬病抗体価検査を受け、その検査の結果が基準値を満たしていること
狂犬病抗体価検査については、遅くともアメリカへ出発する28日前には検査結果が得られるように検査を受けます。
高リスク国滞在歴がある犬をアメリカに持ち込むときに必要な手続きと書類を以下に示します。
- CDC Dog Import Formをオンラインで提出すること
- 狂犬病予防接種証明書(英文)とマイクロチップ装着証明書(英文)をそれぞれ2コピー用意すること
- 狂犬病抗体価検査の結果を記入する前にCDC Dog Import Formを提出してしまった場合、狂犬病抗体価検査の検査通知書(英文)を用意すること
- CDC登録動物保護施設に犬を預ける予約をすること(CDC登録動物保護施設は、アトランタ(ATL, ジョージア州)、ロサンジェルス(LAX, カリフォルニア州)、マイアミ(MIA, フロリダ州)、ニューヨーク(JFK, 貨物輸送のみ、ニューヨーク州)、ワシントンDC(IAD)、及びフィラデルフィア(PHL, ペンシルバニア州)の空港近くにあります)
高リスク国滞在歴がある犬は、2024年8月1日以前ではCDCの空港保健所がある18か所の空港に到着することができましたが、2024年8月1日以降ではCDC登録動物保護施設がある上記6箇所の空港に利用可能空港が限定されました。
上に挙げた6カ所の空港のうちのどれかに到着したらCDC Dog Import Formの受取書、狂犬病予防接種証明書(英文)とマイクロチップ装着証明書(英文)、及びCDC登録動物保護施設の予約確認書をU.S. Customs and Border Protectionに示します。犬は登録動物保護施設による診察を受けて入国を認められるか、最大で28日間の検疫措置になるか、あるいは入国を認められずに元の国に戻されることになります。登録動物保護施設での費用は飼主の負担になります。
ネコの場合
イヌの場合のように種々の証明書が必要になるわけではないですが、入国時に利用した空港内で検査を受け、人間に感染し得る感染症の兆候があるネコは入国を拒否される場合があります。また、CDCはネコについては狂犬病ワクチンの接種証明書を必要としてはいませんが、狂犬病ワクチンの接種を勧めています。ネコへの狂犬病ワクチン接種の必要性と接種証明書の要求は、州によって異なる可能性があります。
アメリカの州レベルでの入国規制
ニューヨーク州の場合
次に州レベルでの規制について見ていきたいと思います。アメリカへ赴任する方が多いと思われるニューヨーク州へ到着する場合を紹介します。まず、連邦レベルでの入国基準に合致していることが要求されます。次にニューヨーク州独自の要求としては、獣医師による健康診断書においてペットが感染性若しくは伝染性の病気にかかっていないこと、又はそのような感染性若しくは伝染性の病気にかかっている他のペットとの接触がなかったことを証明することを要求しています。この感染性若しくは伝染性の病気の病原体には寄生虫と真菌も含まれます。この獣医師の診断書には狂犬病のワクチン接種に関してワクチンの製品名と接種日についての情報を記入することが要求されています。アメリカ向けには、獣医師によって作成してもらった健康診断書を日本の検疫所で転記して輸出検査証明書が作成されます(2023年11月の記載が不正確だったため2024.10.13に修正)。
貨物便でJFK空港にペットを送った場合、JFK空港の敷地内にあるThe ARK at JFKという会社のケンネルにペットが収容されるようです。飼い主が旅客便でペットと共に移動するなら空港ターミナル内のバゲージクレームエリアでペットを引き取ることになるでしょう。
ハワイ州の場合
次に、アメリカの中でもその立地条件から殊の外厳しい規制が存在するハワイ州へ到着する場合を紹介します。まず、連邦レベルでの入国基準に合致していることが要求されます。狂犬病のハイリスク国ではない日本から渡航する場合でも以下の手続きが必要です。ハワイに入州するときはホノルル空港を使用しましょう。さらに細かい部分を説明します。以下に説明するペットの要件と手続きは、イヌとネコで共通の手続です。
ハワイに連れていけるペットの要件
- 妊娠中のペットはハワイに入州できない
- 6か月齢以上のペットがハワイに入州できる
- マイクロチップを装着する
- マイクロチップ装着後、渡航までに30日間の間隔を空けた少なくとも2回の狂犬病ワクチン接種を行う
- ハワイ渡航前の最後の狂犬病ワクチン接種はハワイ到着の30日よりも前である
- 蛍光抗体ウイルス中和法(FAVN)による狂犬病抗体価検査を行う(基準値:0.5IU/ml以上)
- 狂犬病抗体価検査から少なくとも31日間を日本国内で待機する
- ハワイ到着の14日以内に獣医師による健康診断を受け、同時に殺ダニ剤処置を受ける
到着後5日以内に空港からペットが解放されるプログラムを利用するには、イヌもネコも6か月齢以上であることが必要です。入州時に妊娠していることが判明したペットは飼主の費用で施設に収容されることになります。
ペットに装着したマイクロチップは、渡航前に獣医師によって機能することが確認されなければなりません。ハワイでマイクロチップがスキャンできなかった場合、ペットが120日間の係留処分になるので必ず確認を行ってください。
初回の狂犬病ワクチン接種以降の狂犬病ワクチン接種は、常に前回の接種の有効期間内に行わなければなりません。ワクチン接種毎に獣医師からワクチン接種証明書を得ておきます。この証明書には狂犬病ワクチンの製品名、ロット番号、到着前の回の接種とその前の回の接種の間隔、接種日、ワクチンに印字されているロットの有効期限についての情報を記入することが要求されています。
狂犬病抗体価検査は、日本の動物検疫所が要求する検査と同じです。ハワイ州のマニュアルではアメリカ国内の検査機関で狂犬病抗体価検査を行うことを指定していますが、アメリカの連邦政府機関であるCDCは、日本の農水省が指定する日本国内の検査機関を狂犬病抗体価検査に関して適格と認証しています。農水省指定の(一財)生物安全科学研究所から和文と英文の証明書をハワイ州の検疫当局に送付してもらうよう生物安全科学研究所にお願いします(R06.05.02確認)。
ハワイ当局は、狂犬病抗体価検査の有効期間を36か月(3年間)にしています。それまでにハワイに到着することが必要です。ちなみに、日本の動物検疫所は狂犬病抗体価検査の有効期間を2年間にしています。
ハワイ入境のための必要書類
必要書類のハワイ検疫当局への提出について、わかりにくい表現で説明していたので書き換えました(2024.09.25)
ニューヨーク州と異なり、ハワイ州では入州前に必要な書類を州政府に提出することが求められています。ハワイに到着する少なくとも10日前までに提出することが必要です。
- フォームAQS-279
- 狂犬病ワクチン接種証明書
- ペット健康証明書
- 狂犬病抗体価検査結果通知書
以前はフォームAQS-279について公証人による公証が必要だったようですが、2023年現在では公証は必要とされていません。2回の狂犬病ワクチン接種証明書は、上で説明したように記載して作成します。ハワイ到着の14日以内の獣医師による健康診断書にも狂犬病ワクチン接種についてワクチン製品の名前、ロット番号、2回のワクチン接種の間隔、接種日、及びロットの有効期間についての情報が必要です。
フォームAQS-279と2回の狂犬病ワクチン接種証明書は、ハワイに到着する少なくとも10日前までにハワイに郵送されていることが必要です。獣医師による健康診断書はハワイ到着時に提出することも可能です。
上で説明したように農林水産省指定の日本の検査機関(日本生物安全科学研究所)で狂犬病抗体価検査を受け、ハワイ渡航目的の検査である旨を伝えると、その検査機関がハワイ州検疫当局へ狂犬病抗体価検査結果通知書を郵送してくれます。ハワイ州検疫当局は、ハワイ渡航予定者に対し、その結果通知書がハワイ当局に到達したことをハワイへの渡航の前にハワイ州農務省のウェッブサイトで確認しておくことを推奨しています。仮に狂犬病抗体価検査の結果通知書をハワイ到着時に提出した場合、ペットは空港からの即日解放にはならず、その結果の妥当性が検証されるまで係留処分になります。
ハワイ州検疫当局は、当局に書類を提出してしまうため、フォームAQS-279、2回の狂犬病ワクチン接種証明書、及び狂犬病抗体価検査結果通知書についてはコピーを作成しておくことも勧めています。
検疫費用
ホノルル空港に到着したら敷地内にあるハワイ州検疫局(AQS)の建物に行き、検疫を受け(おそらく、旅客機の貨物室にペットを預けたのならペットは飛行機からAQSの建物に直行しています)、手続費用をハワイ州政府に支払います。到着当日解放のダイレクト・エアポート・リリースの場合は185ドル、5日以内解放プログラムの場合(書類に不備が無いが、到着10日以前に書類がハワイ当局に届かなかった場合)は244ドルに加えて一日当たり14.30ドルの費用を支払います。書類に不備があった場合、最大で120日間にわたって施設に収容されることになりますが、この場合も一日当たり14.30ドルの費用が加算されることになります。
日本へ帰るとき
ペットと一緒に日本に帰国するための日本側の検疫の手続きについては、ハワイから帰国する方はこちらの記事、それ以外の州から帰国する方はこちらの記事をご覧ください。
アメリカ側の手続きとしてアメリカ農務省(USDA)認定獣医師による健康診断を受け、アメリカ政府の獣医官による裏書を得ることができます。USDA非認定の獣医師もいますので、アメリカ動植物検疫局(Animal and Plant Health Service)のページからアメリカ国内の居住地の近くのUSDA認定獣医師を検索してください。
アメリカのUSDA認定獣医師が発行した健康証明書ファイルには、獣医輸出証明書(VEHCS: Veterinary Export Health Certificate System)を介して電子署名が付され、健康証明書を発行した獣医師がこれを紙にプリントアウトしてペットの飼い主に渡します。日本の動物検疫所は、アメリカのデータベースの中にある健康証明書を動物検疫所に提出する輸出国政府機関発行の証明書として認めていますが、プリントアウトした紙も携帯しておくほうがよいでしょう。
まとめ
どうですか。ハワイ州へのペットとの移住はニューヨーク州よりも難しそうですよね。ホノルル空港の検疫は午後5時で終了しますので、午後4時までに到着する飛行機の便でハワイに渡航しないと到着した当日にペットと空港を離れることができないので、その点でも注意が必要です。ニューヨークよりも難しいけれども一つ一つ段階を踏んでいけば乗り越えられないハードルではないとも言えます。それでも言葉の問題もあり、不安な方はハワイ現地スタッフがいる業者に渡航手続きの依頼をしたほうが安心できるでしょう。
アメリカ本土滞在中に陸路又は空路でカナダにペットを連れて行くこともあるかもしれません。その場合にはこちらの記事が役立つに違いありません。
以上、ニューヨーク州又はハワイ州にペットを連れて行くための準備と手続きを説明しました。アメリカへの移住にペットを連れていきたいのだけれども自分で渡航準備の全てを行う時間がない、助けを必要としている、という方は行政書士渡邉光一事務所にご相談ください。