本記事では、前回の記事に引き続き、定款の記載事項について説明します。
絶対的記載事項の内容
発行可能株式総数
将来の出資金の増額も考慮して決定します。会社法は、「設立に際して出資される財産の価額又はその最低額」でも説明するように、公開会社の発行可能株式総数は発行株式数の4倍を超えることができないと規定しています。非公開会社の発行可能株式総数にこのような制限はありません。
設立に際して出資される財産の価額又はその最低額
設立当初の会社の出資金の額のことです。出資者は、出資金を払込み、その出資金に相当する株式を受け取ります。発起設立の場合、発起人が出資者となって出資金を払い込みます。設立する会社が公開会社である場合、設立時発行株式の数は発行可能株式総数の4分の1未満であることができないため(会社法第37条3項)、初めから公開会社を設立するのであれば定款に定める発行可能株式総数、設立に際して出資される財産の価額又はその最低額、及び株式1株の価額をよく考える必要があります。また、許認可が必要な業種の事業を予定している場合、その許認可の決定にその会社の財産的要件が関係するため、この要件を達成するように資本金を設定する必要があります。
相対的・任意的記載事項の内容
会社設立時の現物出資、財産引受、発起人の報酬その他の特別の利益、及び設立費用についての定め
会社設立に際して金銭ではなく、金銭以外の財産を提供する発起人がいる場合、発起人が会社成立を条件として会社のためにある財産を第三者から譲り受ける契約をしている場合、会社成立後に発起人が成立後の会社から金銭又は他の特別の利益を会社設立のための労務に対する報酬として受け取る場合、及び/又は発起人が会社成立のために費用を支出した場合(会社に損害を与えるおそれがない支出は除外されます)、それらの詳細を定款に記載する必要があります。ただし、これらの事項は会社の財産を害する可能性があるため、これらの事項が正当であるか検査してもらわなければなりません。この検査役の選任は、裁判所に申し立てることで行われます。会社設立の手続が複雑になりますし、検査役にも費用が発生するため、この事項の記載を避けることをお勧めします。
株式の譲渡制限の定め
非公開会社として会社を設立する場合、全ての発行株式に譲渡制限を付す必要があります。
基準日
各事業年度の定時株主総会において権利を行使することができる株主名簿上の株主を決定する基準となる日のことです。事業年度の開始日ではありません。
公告の方法
株式会社は、定時株主総会の後に決算公告を行うことになっています。また、会社の合併や減資等、会社の債権者に重大な影響を及ぼす可能性がある事項を知らせるときも公告を行うことになっています。公告は、日刊新聞に掲載する方式もありますが、官報公告か電子公告のどちらかが現実的だと思われます。決算公告に関し、官報公告では賃借対照表の要旨を掲載すればよいとされていますが、電子公告では自社のホームページに賃借対照表の全てを5年間にわたって表示し続けることになっています。また、決算公告以外の債権者保護のための公告に関しては、電子公告ではその公告を行ったことを第三者調査機関に証明してもらわなければならず、その証明には費用が発生します。公告に必要な費用を考えると決算公告は電子公告で、それ以外の公告は官報公告で行うことが理想的です。定款に「公告は、官報に掲載する方法で行う。ただし、賃借対照表に係る情報の提供はインターネットを使用する方法で行う。」と記載することでこのような使い分けができます。賃借対照表の細かいところまで知られたくない場合は全てを官報公告で行うことを選択します。
取締役等の選任及び解任
株主総会において取締役等を選任・解任する際の決議の要件について記載します。
株券発行の定め
株式会社は、原則として株券を発行しません。紙に印刷した株券を発行したいときにのみ定款に記載します。
取得請求権付株式に関する定め及び取得条項付株式に関する定め
会社成立後に定款を変更してこれらの条項を記載することも可能ですが、この定款変更に必要な条件が厳しいため、これらの条項を定款に入れるのであれば会社設立時の定款案に最初から入れておくほうが簡単であると思われます。
株主総会に関する定め
株主総会における決議の要件について記載します。
事業年度
設立する会社の事業年度の開始日と終了日を記載します。1千万円未満の資本金で会社を設立すると、1期目の上半期(6か月)で1千万円の売上があった場合を除き、消費税が2期にわたって免税となります。1期目の会社設立の日から事業年度の終了日までが1年に近くなるように事業年度の開始日を設定すると、免税期間が長くなります。法人税の申告は、原則として決算日から2か月以内にすることになっているため、会社の繁忙期が決算月から申告月までの期間に重ならないようにする配慮も必要です。
以上、定款の記載内容について説明しました。この2回の記事の中で挙げた相対的及び任意的記載事項以外にも定款の中に記載することができることはあります。定款案作成者と発起人との間の対話から、そのような事項を記載してゆくことになります。定款案を発起人全員で確認し、発起人全員の同意を得ることで定款案が完成します。次回より定款案作成後の手順について説明します。定款作成後の手続きには会社印(法人実印)が必要になります。商号が決定した段階で作成依頼をしておくとよいでしょう。