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遺言・死因贈与でペットにお金を遺す

ドッグ ペット

 高齢の生活者の中にはペットを飼っているけれども、又は飼いたいけれども、自分たちが死んだ後に遺されたペットが世話をしてもらえるか心配な方、又は心配でペットを飼うことに躊躇している方がいるでしょう。そのような心配に対処するための契約を紹介します。

二者間での契約による方法

 飼主が亡くなってしまった後にそのペットの世話をするためには、まず、誰かそのペットの世話を引き受けてくれる人がいなくてはなりません。ペットの保険を提供しているアニコム損害保険株式会社によると、2022年の調査ではペット1頭当たりの支出は、イヌでは年間36万円、ネコでは年間16万円でした。アメリカではペットが遺産の受取人(受取犬、受取猫?)になれるそうですが、日本ではペットは遺産を受け取ることができません。そこで、ペットの世話をしてくれる人(以後、「世話人」と呼びます)が自費でもそのペットの世話をしたいというのならば別ですが、ペットを世話するための経費に充ててもらうため、幾らかでもお金を世話人に渡した方がいいと思います。その場合、「負担付き遺贈」又は「負担付き死因贈与」という制度を利用することができます。どちらの場合もペットに財産を贈与するのではなく、正確にはペットの世話を条件として世話人に財産を贈与します。

負担付き遺贈

 負担付き遺贈制度を使用する場合、遺されるペットが死ぬまでのそのペットの世話を条件としてペットにかかる年間の費用と遺されるペットの推定余命から計算される額の金銭を世話人とされる人に遺贈する旨を遺言の中に加えます。ただし、遺贈は贈る側と贈られる側の双方の合意によって成立するのではなく、贈る側の意思のみで成立するため、贈られる側が遺贈の申出を拒否することもあり得ます。そうなると遺されるペットは宙ぶらりんの状態になってしまします。

 遺贈された金銭を世話人が受け取ると、ペットの世話が世話人の義務になります。お金だけ受け取ってペットの世話がされていない場合、そのことを家庭裁判所に申し立てて世話人にちゃんと世話をさせるか、又はお金を返却させて世話を止めさせることができます。そのためには、誰か世話人を監督する人を遺言の中で指定しておくことが必要です。

負担付き死因贈与

 負担付き遺贈と異なり、負担付き死因贈与は飼主が元気なうちに世話人となる人との間で契約して成立します。大事なことですから書面で契約し、その契約書を公証役場で公正証書化するといいです。死因贈与契約を結んでいると、双方合意したということで世話人がペットの世話を最初から拒否することがなくなります。

 負担付き死因贈与制度を利用する場合も世話人が適正にペットの世話をしているか監督する人の存在が重要です。負担付き遺贈の場合と同様に監督者が裁判所に申立てをして負担付き死因贈与契約を解除することができます。飼い主が亡くなる前から負担付き死因贈与契約の世話人になる者にペットの世話をしてくれるように委任契約を別に締結して世話人の働きぶりを確認することも良いアイディアだと考えます。

 遺贈も死因贈与も相続に関係があります。遺贈及び死因贈与で贈られた金銭は相続税の課税対象になります。また、世話人に贈られる金銭の額が他の相続人の遺留分を侵害しないように注意する必要があります。遺留分については以前の記事で説明しています。

三者を必要とする契約による方式

 これまで、飼主の死後に遺されたペットを世話してくれる人に飼い主がお金を渡すための2つの方法を紹介しました。次に紹介する方法は「信託」といい、「委託者」、「受託者」、及び「受益者」という三者を必要とする契約に基づく制度です。「信託」を利用する場合、飼主を委託者、飼主から委託された金銭管理者を受託者、及びペットの世話人を受益者として信託契約を結びます。飼い主は、「受託者と受益者を信じてペットを託す」ということです。

 信託契約のメリットとしては、信託の契約書を公正証書化しているため、世話人がペットの世話を拒否するおそれがないことが挙げられます。また、ペットの世話のための金銭をまとめて金銭管理者に預けているため、世話人はペットの世話をしていなければ金銭管理者からお金を受け取ることができません。また、細かいことですが、遺贈及び死因贈与でペットの世話のために世話人に贈られた金銭は世話人の財産として扱われるため、もし世話人が破産したらその清算のために使われてしまいます。これに対し、信託された金銭は、金銭管理者が管理していますが、委託者のお金でも金銭管理者のお金でも世話人のお金でもない独立したお金であるため、これらの三者以外の人に使われてしまうことはありません。さらに、信託は飼主が生きている間から始めることができるため、飼い主が元気なうちに世話人の働きぶりを確認することができます。

 金銭管理人と世話人が共謀してペットの世話をせずにお金だけ受け取るおそれもあります。このようなことに対処するため、「信託監督人」を契約の中で定めて信託監督人に両者を監督してもらうこともできます。

 信託のデメリットとしては、平成18年の信託法改正を機に信託が遺されるペットのために利用されるようになってきたため、ペットに関する信託契約作成に詳しい専門家がまだ少ないことが挙げられます。また、信託監督人を選任すると世話人に加えて信託監督人にも報酬を支払うこともデメリットの一つです。さらに、信託を利用するには専門家に信託契約書の原案の作成を依頼することになりますが、そのために専門家に支払う報酬は遺言証書又は贈与契約書の作成のために支払う報酬よりも高額であることが一般的です。遺留分について注意しなくてはならない点は、負担付き遺贈及び負担付き死因贈与と同様です。

まとめ

 飼主の死後にペットの世話をしてくれる人にお金を渡すための「負担付き遺贈」、「負担付き死因贈与」、及び「信託」という方法について説明しました。筆者は、「負担付き死因贈与」がこの目的に適していると考えます。遺されたペットのためにお金を遺したいという方は行政書士渡邉光一事務所にご相談ください。

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