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(終活マガジン第6号)知っておきたい相続の基礎知識:遺言の方式

遺言書作成の写真 終活・相続

 前号までの記事において相続の基本と遺産分割協議による遺産分割について説明してきました。今号からの記事では遺言による遺産分割について説明します。遺言には三方式があり、それぞれにメリットとデメリットがあること、及びそれらの方式に共通する特徴を説明します。

遺言には3種類の方式がある

 遺言は、自分の財産を自分が望むような分け方で死後に分配するための制度と言えます。15歳以上の人は、遺言をすることができます。遺言は、遺言をするときにその能力を有していれば遺言をすることができるとされていますので、認知症になってしまった人でも、一定の条件がありますが、遺言をすることができます。

 遺言をするには、幾つかの決まりがあり、これらの決まりを満たしていない遺言は無効になります。一般に用いられる遺言の方式には三種類がありますが、これらに共通の決まりとして「共同遺言の禁止」というものがあります。これは、一通の遺言証書には一人分の遺言しか記載できないことを意味します。例えば、夫婦連名の遺言を一通の証書で済ますことはできません。

 遺言では遺言者の死後の遺産分割又は相続分の指定に加え、遺贈、相続人の廃除又は廃除の取消し、子の認知、遺産分割の禁止、担保責任の(分担の)指定、祭祀承継者の指定、及び遺言執行者の指定又は指定の委託等を行うことができます。また、近親者以外の成年後見人や未成年後見人の利益になるような遺言は無効とされています。

遺言のメリットとデメリット

親が子に遺言を遺すメリットとデメリットとは何ですか?

 遺言のメリットとしては、相続手続きの負担を相続人のために軽減できること、遺言をしないことによる相続人間での遺産を巡るトラブルを予防できること、相続人以外の大事に思う存在に財産を遺せることが挙げられます。

 遺言のデメリットとしては、遺言に従って遺産を受け継いだ相続人が、相続税を払えないためにその遺産を手放すことになってしまったり、他の相続人との間で遺留分を巡る争いに巻き込まれたりすることが挙げられますが、これらのデメリットは遺言の内容を精査すれば十分に防止可能です。

 また、相続人が遺言者の意に反して相続放棄してしまうこともあり得ます。さらに、共同相続人と受遺者の全員が合意すれば遺言の内容とは異なった方式で遺産を分割することも可能です。

遺言の方式

行政書士
行政書士

遺言には三方式があります。これらの方式にはそれぞれメリットとデメリットがありますので以下の説明をお読みになってご自身に合った方式を選択してください。

自筆証書遺言

 自筆証書遺言とは、遺言者が、その全文、日付、及び氏名を自書し、押印して作成する方式の遺言をいいます。この方式の遺言をワープロ等で作成することは許されていません。これは、筆跡によってその証書が確かに遺言者によって作成されたものであることを証明するためです。
 作成された遺言証書は自分で保管することができるほか、法務局において管理保管してもらえるようになりました。

公正証書遺言

 公正証書遺言とは、遺言者が遺言の内容を公証人に口頭で伝え、公証人がその内容を筆記し、遺言者及び2名以上の証人が自署押印して作成する方式の遺言をいいます。障害のために口頭で伝えることができない人については、手話通訳者を介して又は自書によって公証人に遺言書の内容を伝えることになります。最後に公証人が署名押印して公正証書の形式にすることで公正証書遺言が完成します。

秘密証書遺言

 秘密証書遺言とは、遺言者が遺言を記載、署名押印し、これを封書に入れ、遺言書に押印したものと同一の印で封印し、これを公証人1人と証人2人以上の前に提出し、公証人と共に所定の手続きを行うことで作成する方式の遺言をいいます。自筆証書遺言と異なり、遺言書の内容をワープロで作成することも可能です。このように、秘密証書遺言は、自筆証書遺言と公正証書遺言の性質を併せ持った遺言と考えられますが、中途半端な制度と考えられているのか、実際に秘密証書遺言の方式で遺言を作成する例は少ないようです。

遺言証書には相続財産の目録を添付することができます。これは三方式に共通です。財産目録はワープロで作成されたものであってよく、自署押印してこれを遺言証書に添付します。持っている財産を記入する欄があるような市販のエンディングノートに記入することで財産目録の作成が容易になります。遺言証書の内容を考える前にエンディングノートを完成させてみてはいかがでしょうか。

遺言は自由に撤回可能であるが、撤回権を放棄することはできない

 遺言者は、遺言の作成後、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができます。また、その遺言を撤回する権利を放棄することはできません。

 自筆証書遺言の場合、遺言を一部撤回し、これを変更する場合、その変更箇所を指示し、変更した旨を付記してこれに署名をし、さらに変更した場所に押印をしなければ変更が有効になりません。変更箇所が多い場合には、遺言の全体を撤回して新しい遺言証書を作成したほうが簡単であると思われます。

遺言の効力の発生時期

 遺言は、法定の方式に従って作成したときに成立しますが、その効力は、遺言者が死亡したときに生じます。自筆証書遺言方式の遺言者が死亡したとき、自筆証書遺言の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく家庭裁判所に遺言書を提出して家庭裁判所による検認を受けなくてはなりません。検認手続きを経ずに遺言の執行を行った場合、過料に処せられます。ただし、上で述べた自筆証書遺言の法務局による保管制度を利用した場合、検認手続きを省くことができます。秘密証書遺言方式の遺言も検認手続きを必要としますが、秘密証書遺言は、法務局による遺言保管制度の対象とされていません。また、公正証書遺言方式で遺言をした場合、検認手続きを必要とせず、さらに、遺言の原本が公証役場に保管されます。

各遺言方式のメリットとデメリット

自筆証書遺言

 自筆証書遺言のメリットは、書き方を理解していれば、誰でも簡単に作成することができ、費用も節約できることです。自筆証書遺言保管制度を利用すれば、遺言書の紛失、亡失、破棄、隠匿、改ざん等を防ぐことができます。デメリットとしては、自筆証書遺言の方式に合っていない遺言は無効になること、遺言書の紛失、亡失、破棄、隠匿、改ざん等の可能性があることが挙げられます。自筆証書遺言保管制度を利用しない場合に検認手続きが必要になることは、上で述べたとおりです。また、自筆で全ての文章を書く労力を考えると、体力のあるうちに遺言書を用意しておいた方がよいでしょう。

公正証書遺言

 公正証書遺言のメリットは、遺言の内容を公証人に口頭で伝えて証書を作成するため、体力が弱ってからでも遺言の作成が可能であること、公証人がチェックするため、方式の不備で遺言が無効になる可能性がないこと、検認手続きが不要であること、公証役場で遺言の原本が保管されるため、紛失、亡失、破棄、隠匿、改ざん等のおそれがないことです。デメリットとしては、自筆証書遺言と比較して作成費用が掛かることが挙げられます。

秘密証書遺言

 秘密証書遺言のメリットは、全文自書が要件ではないため、体力が弱ってからでも遺言の作成が可能であること、作成過程に公証人と証人の関与があるため、改ざん等のおそれがないことです。デメリットとしては、公証人による内容のチェックが入らないため、無効とされる可能性があること、遺言書の作成費用が掛かること、検認手続きが必要であることが挙げられます。

自筆証書遺言/公正証書遺言原案の作成後の手続き

 自筆証書遺言を作成した後に作成者の机の引き出しの中に遺言書を入れていても問題ありませんが、遺言者の死後に遺言書を見つけてもらえないままになる可能性もあります。このようなことを防ぐ手段として自筆証書遺言保管制度が用意されています。公正証書遺言の原案を作成した後にその原案は公証役場で公正証書にされなければ公正証書遺言になりません。ここでは自筆証書遺言保管制度を利用する場合の手続き、及び公正証書遺言の原案作成後の手続きを紹介します。

自筆証書遺言
提出先住所地を管轄する法務局
添付書類・保管申請書
・住民票の写し(本籍、戸籍の筆頭者の記載有り、マイナンバー、住民票コード無し)
手数料1通あたり3,900円
公正証書遺言
提出先住所地を管轄する公証役場
添付書類・原案の作成に当たって収集した書類
・発行されてから3か月以内の印鑑証明書
・証人予定者の住所氏名、生年月日、及び職業を記したもの
手数料相続させる財産の額で異なる

 法務局又は公証役場に自筆証書遺言又は公正証書遺言原案を添付書類及び手数料と併せて提出します。法務局及び公証役場へ遺言書を提出した場合における遺言者の死後に採る手続については、第8号の記事で説明します。

まとめ

 今号の記事は、遺言の概要と遺言の方式について見てきました。行政書士は、自筆証書遺言方式及び公正証書遺言方式の遺言原案作成について遺言者と協働することができます。加えて、遺言者のため、公正証書遺言方式の証人になることもできます。次号の記事は、相続人以外の者に遺産を贈る遺贈、及び遺言作成の時に考慮すべき各相続人の遺留分について説明します。

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