前号の記事において遺言者は自由に遺産の配分を指定でき、それでも各相続人には侵すことができない遺留分が存在することを説明しました。今号の記事では遺言者が死亡して相続が発生した後の遺言の手続きについて説明します。
遺言者の死後の手続き
自筆証書遺言 | |
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請求先 | 自筆証書遺言保管制度を利用した場合、法務局から遺言書の写し(遺言書情報)を取り寄せる |
必要書類 | ・交付請求書 ・「法定相続情報一覧図」又は遺言者の出生から死亡までの戸籍(除籍)謄本 ・相続人全員の戸籍謄本 ・相続人全員の住民票の写し ・有効期限内の顔写真付き公的身分証明書 ・手数料 |
通知制度 | ・指定相続人通知制度あり(遺言者の希望時にのみ、遺言者の死亡時に指定相続人に遺言書の存在を通知する) ・相続人の一人が遺言書の閲覧や写しの交付を請求すると全ての相続人に通知が行く |
公正証書遺言 | |
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請求先 | 遺言書を作成した公証役場において謄本を請求 |
必要書類 | ・遺言者の死亡がわかる除籍謄本 ・遺言者と請求者との間の関係がわかる戸籍謄本 ・請求者の3か月以内に発行された印鑑証明書及び実印、又は有効期限内の顔写真付き公的身分証明書 |
通知制度 | なし |
以上のものを請求先に提出して遺言書を手に入れます。
遺言の内容を実現する者:遺言執行者
遺言執行者の就任まで
誰が遺言の中に書かれていることを実現するのですか?弁護士や司法書士が行うのですか?
第六号で説明した方式で作成された遺言の内容を執行する者を遺言執行者といいます。未成年者と破産者は遺言執行者に就任できませんが、相続人であっても遺言執行者になることができ、遺言執行者が法人であっても問題ありません。また、遺言執行者が複数であってもよく、その場合では遺言執行者の過半数で遺言の執行を決します。ただし、相続財産の分割までの保存行為については、各遺言執行者が単独で行うことができます。
遺言者は、遺言で遺言執行者を指定し、又はその指定を第三者に委託することができます。遺言執行者の指定を委任された第三者は、遺言執行者を指定したら直ちに相続人にその旨を伝えます。遺言執行者に指定された者は、その指定を受諾しないことができますが、指定の諾否について相続人に遅滞なく通知しなくてはなりません。
家庭裁判所は、遺言執行者が遺言で指定されていないとき、又は遺言執行者がいなくなったときに利害関係者(相続人等)の請求によって新たな遺言執行者を選任することができます。
遺言執行者は、就任したら、遺言の内容を相続人に遅滞なく通知しなくてはなりません。
遺言執行者の権限と義務
遺言執行者に就任した弁護士の〇〇です。故人の遺言を実現するために頑張らせていただきます。まず初めに皆さんに故人の遺言の内容を通知いたします。その次に遺言の指定通りに遺産の名義変更を行います。故人は、財産の一部を〇〇〇会に遺贈する旨を遺言されていますが、これは私の責任で履行いたします。
遺言執行者は、遺言の内容の通知に加え、相続財産の目録を遅滞なく作成して相続人に交付します。遺言執行者は、公証人に相続財産目録を作らせることもできます。
遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有します。例えば、被相続人の有していた銀行口座の解約や、証券口座の証券の名義変更などを行うことができます。また、遺贈の履行は、遺言執行者がいる場合には遺言執行者のみが行うことができます。遺言執行者がいない場合には、相続人が遺贈義務者になります。
遺言執行者は、相続人の請求がある場合には相続人を立ち会わせて相続財産目録を作成し、遺言執行の状況を報告することを要します。
特定財産に関する遺言の執行
特定の遺産を共同相続人のうちの特定の者に相続させる遺言を特定財産承継遺言といい、このような遺言があった場合、遺言執行人は、法定相続分を超える遺産をその特定財産承継遺言により得た相続人に対し、対抗要件を備えるために必要な行為をすることができます。具体的には、自動車の登録をその相続人の名義にすること、土地の登記をその相続人のために行うこと等が挙げられます。特定財産承継遺言で指定された遺言執行者は、その特定財産についてのみ処理を行うことができます。
被相続人が遺言で遺言執行者を指定した場合、遺言執行者が遺産整理の手続きを行うことが民法で規定されています。遺言作成業務を受任した専門家を遺言執行者としてもよいですし、上で説明したように相続人の一人を遺言執行者としてもかまいません。遺言執行者となった相続人は、遺産整理を業務とする弁護士、司法書士、行政書士、又は税理士に依頼して遺産整理を手伝ってもらうこともできます。
まとめ
今号の記事は、遺言の執行について説明しました。今号のポイントを以下にまとめます。
これから遺言書を作成しようとしている方は、お近くの士業の先生(行政書士又は司法書士、場合によっては弁護士)に相談されてみてはいかがでしょうか。これまで八回にわたり、主に民法で規定されている相続の手続きを説明してきました。次号の記事は不動産の相続に関係する相続税以外の税金を説明します。
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