前回の記事では、地域医療提供体制や行政への報告義務など、医療提供機関の主に行政との関係に関する”外側の仕組み”を取り上げました。今回は逆に、医療の理念や情報提供、広告規制といった、医療提供の根幹にかかわる内容を扱います。
第一部:医療の理念
医療法第1章は、法律全体の基本となる「総則」を定めた部分で、医療の理念、医療提供のあり方、国・地方公共団体・医療従事者それぞれの基本的役割を示しています。また、医療法で用いられる主要な用語の定義もこの章で規定されています。
■法の目的(法第1条)
目的:
- 医療を受ける者の利益の保護
- 良質で適切な医療の効率的な提供体制の確保
- 国民の健康の保持への寄与
目的達成の手段:上の目的達成のために下記の事項を定める・
- 医療を受ける者による医療に関する適切な選択を支援するために必要な事項
- 医療の安全を確保するために必要な事項
- 病院・診療所・助産所の開設及び管理に関し必要な事項
- これらの施設の整備・医療提供施設相互間の機能分担・業務連携推進に必要な事項
- その他の事項
■医療の理念・提供の態様(法第1条の2)
◇医療の理念(第1項)
- 医療は、生命尊重と個人の尊厳保持を旨とする。
- 医療は、医療の担い手と医療を受ける者との信頼関係に基づいて行われる。
- 医療は、医療を受ける者の心身の状況に応じて行われる。
- 医療の内容は、治療・疾病予防措置・リハビリテーションを含む。
◇医療提供の態様(第2項)
- 医療は、国民自らの健康の保持増進のための努力を基礎とする。
- 医療の提供においては、医療を受ける者の意向を十分に尊重する。
- 医療は、医療提供の場において、医療提供施設の機能に応じ効率的に、かつ、福祉サービスその他の関連するサービスとの有機的な連携を図りつつ提供されなければならない。
医療提供の場
医療提供施設及び医療を受ける者の居宅等
医療提供施設に含まれるもの
病院、診療所、介護老人保健施設、介護医療院、調剤を実施する薬局その他の医療提供施設
■国・地方公共団体の役割(法第1条の3)
役割:第1条の3に規定する理念に基づき、良質で適切な医療の効率的提供体制の確保に努める。
■医療の担い手の役割(法第1条の4)
◇医療の担い手による医療提供の態様(第1項・第2項)
- 医療の理念に基づき、医療を受ける者に対し、良質で適切な医療を行うよう努める。
- 医療を提供するに当たり、適切な説明を行い、医療を受ける者の理解を得るよう努める。
◇医療提供施設間の情報提供(第3項)
目的:医療提供施設相互間の機能分担・業務連携の促進
情報提供者:医療提供施設において診療に従事する医師・歯科医師
内容(努力義務):
- 必要に応じ、医療を受ける者を他の医療提供施設に紹介する。
- 診療に必要な限度において、医療を受ける者の診療・調剤に関する情報を他の医療提供施設の医師・歯科医師・薬剤師に提供する。
- その他必要な措置を講ずる。
◇保健医療福祉サービス提供者との連携(第4項)
連携の配慮義務者:病院・診療所の管理者
連携の場面:病院・診療所を退院する患者が引き続き療養を必要とするとき
内容:保健医療サービス・福祉サービスの提供者との連携を図り、当該患者が適切な環境下で療養を継続できるよう配慮する。
◇医療提供施設の開放(第5項)
目的:医療技術の普及・医療の効率的提供の促進
開放の配慮義務者:病院・診療所の開設者・管理者
内容:医療提供施設の建物・設備を、その施設に勤務しない医師・歯科医師・薬剤師・看護師その他の医療の担い手の診療・研究・研修のために利用させるよう配慮する。
医療法の用語集
「病院」とは(法第1条の5第1項)
医師・歯科医師が、公衆又は特定多数人のため医業又は歯科医業を行う場所であって、20人以上の患者を入院させるための施設を有するもの。
「診療所」とは(法第1条の5第2項)
医師・歯科医師が、公衆又は特定多数人のため医業又は歯科医業を行う場所であって、患者を入院させるための施設を有しない又は19人以下の患者を入院させるための施設を有するもの。
「介護老人保健施設」とは(法第1条の6第1項)
介護保険法の規定による施設であって、看護・医学的管理の下における介護・機能訓練その他必要な医療・日常生活上の世話を要介護者に提供することを目的とするもの。
「介護医療院」とは(法第1条の6第2項)
介護保険法の規定による施設であって、療養上の管理・看護・医学的管理の下における介護・機能訓練その他必要な医療・日常生活上の世話を長期にわたる療養が必要な要介護者に提供することを目的とするもの。
「助産所」とは(法第2条)
助産師が公衆又は特定多数人のためその業務を行う場所。助産所は、妊婦・産婦・褥婦10人以上の入所施設を有してはならない。
「地域医療支援病院」とは(法第4条)
厚生労働大臣の定める者の開設する病院であって、地域における医療の確保のために必要な支援に関する法第4条に掲げる要件に該当するもの。所在地の都道府県知事の承認を得て地域医療支援病院と称する。
「特定機能病院」とは(法第4条の2)
高度医療の提供体制の確保に関する法第4条の2に掲げる要件に該当する病院。厚生労働大臣の承認を得て特定機能病院と称する。
「臨床研究中核病院」とは(法第4条の3)
臨床研究の実施について中核的な役割を担うことに関する法第4条の3に掲げる要件に該当する病院。厚生労働大臣の承認を得て臨床研究中核病院と称する。
■名称の制限(法第3条)
◇名称利用の制限(第1項)
疾病の治療・助産を行う場所であって、病院・診療所でないものは、以下の名称を付けてはならない。
- 病院
- 病院分院
- 産院
- 療養所
- 診療所
- 診察所
- 医院
- その他病院又は診療所に紛らわしい名称
◇診療所に対する制限(第2項)
診療所は、病院、病院分院、産院その他病院に紛らわしい名称を付けてはならない。
◇助産所に関する制限(第3項)
助産所ではないものは、助産所その他助産師がその業務を行う場所に紛らわしい名称を付けてはならない。
特則的条文
■往診出張専門の医療従事者の事業所(法第5条)
◇事業所の住所(第1項)
対象:往診専門の医師・歯科医師又は出張専門の助産師
内容:その住所をもって診療所又は助産所とする。
◇報告徴収と物件提出命令(第2項)
命令者:都道府県・政令で指定された保健所設置市・特別区の首長
内容:第1項に規定する医師・歯科医師・助産師に対し、必要な報告、検査のため記録・帳簿などの物件の提出を命ずることができる。
■地域医療貢献医師の認定(法第5条の2)
内容:厚生労働大臣は、臨床研修修了医師の申請に基づき、その者を地域医療に関する知見を有する医師として認定する。
資格:当該医師は、医師確保を特に図るべき区域において一定期間働き、必要な経験を積んでいること。
第二部:医療に関する情報の提供等
医療法第2章第1節は、医療を受ける者が医療機関や医療内容を適切に選択できるよう、国・地方公共団体・医療提供施設が行う情報提供、機能情報の報告・公表、入院や助産に関する説明書面の交付などの措置を定めています。
■医療機関選択のための情報提供に関する基本的責務(法第6条の2)
◇国・地方公共団体の努力義務(第1項)
義務者:国・地方公共団体
内容:当該目的のため、必要な措置を講ずるよう努める。
目的:医療を受ける者が医療機関の選択に関して必要な情報を容易に得られるようにするため
◇医療提供施設の開設者・管理者の努力義務(第2項)
義務者:医療提供施設の開設者・管理者
内容:
- 提供する医療について、正確で適切な情報提供に努める。
- 提供する医療について、患者やその家族からの相談に適切に応ずるよう努める。
目的:医療を受ける者が保険医療サービスを適切に選択できるようにするため
◇国民の努力義務(第3項)
義務者:国民
内容:
- 医療提供施設相互間の機能の分担・業務の連携の重要性についての理解を深めるよう努める。
- 医療提供施設の機能に応じ、医療に関する選択を適切に行い、医療を適切に受けるよう努める。
目的:良質で適切な医療の効率的提供を助けるため
■医療機関の機能情報の報告・公表制度(法第6条の3)
◇病院等の機能情報の報告・公表(第1項・第2項)
報告・公表義務者:病院・診療所・助産所(「病院等」)の管理者
内容:
- 厚生労働省令で定める事項(医療法施行規則別表第一)を病院等の所在地の都道府県知事に報告する。
- 当該事項を記載した書面を当該病院等において閲覧に供する。
報告・公表する情報の性質:
医療を受ける者が、かかりつけ医機能を含む病院等の機能を十分に理解して、病院等の適切な選択を行うために必要な情報。
「かかりつけ医機能」とは
身近な地域における日常的な医療を提供する機能
報告事項変更時の取扱い:
病院等の管理者は、速やかに、その所在地の都道府県知事に報告し、書面の記載を変更しなければならない。
◇都道府県知事の対応(第4項・第5項)
対応者:病院等の報告を受けた都道府県知事
内容:
- 市町村その他の官公署に対し、当該病院等に関する情報の提供を求めることができる。
- 情報提供要請の場面:報告の内容を確認するために必要があると認めるとき
- 報告の内容を厚生労働大臣に報告するほか、その内容を公表する。
◇病院等の未報告・報告拒否への対応(第8項)
対応者:都道府県知事
対応の場面:病院等の管理者が報告をせず、又は虚偽の報告をしたとき
対応の内容:期間を定めて、当該病院等の開設者に対し、病院等の管理者による報告実施・報告内容の是正を命ずることができる。
■入院時の診療計画書等の作成・説明義務(法第6条の4)
◇診療計画書の作成・説明義務(第1項)
義務者:病院・診療所の管理者
書類作成・説明の場面:患者を入院させたとき
書類作成・説明者:診療を担当する医師・歯科医師
内容:入院中の診療等の事項を記載した書面の作成・患者又はその家族への当該書面の交付及び適切な説明
書類作成・説明が免ぜられる場合:
- 患者が短期間で退院することが見込まれる場合
- 当該書面を交付することにより、当該患者の適切な診療に支障を及ぼすおそれがある場合
- 当該書面を交付することにより、人の生命、身体又は財産に危険を生じさせるおそれがある場合
◇診療計画書作成に伴う連携確保の努力義務(第4項)
義務者:病院・診療所の管理者
内容:
- 当該病院・診療所従業員の知見を反映した診療計画書の作成
- 診療計画書に基づく、当該病院・診療所従業員の有機的連携の下での医療の提供
◇療養支援サービス書面の作成・説明の努力義務(第3項)
義務者:病院・診療所の管理者
書類作成・説明の場面:患者を退院させるとき
内容:退院後の療養に必要なサービス(保健医療サービス・福祉サービス)に関する書面の作成・交付・適切な説明
◇療養支援サービス書面作成に伴う連携確保の努力義務(第5項)
義務者:病院・診療所の管理者
内容:療養支援サービス書面の作成に当たっては、患者の退院後の療養に必要な保健医療サービス又は福祉サービス提供事業者との連携を図る。
■継続的医療を要する外来患者への説明義務(法第6条の4の2)
義務者:かかりつけ医機能報告対象病院等としての確認を受けた病院・診療所の管理者
内容:継続的な医療を要する者又はその者の家族に対し、診療を担当する当該病院・診療所の医師・歯科医師により治療計画等の事項の適切な説明を行うよう努める。
具体的な説明事項
- 疾患名
- 治療に関する計画
- 当該病院又は診療所の名称、住所及び連絡先
- その他厚生労働省令で定める事項(医療法施行規則第1条の8の2第3項)
説明を行う場面:
- 継続的な医療を要する者に対して在宅医療を提供する場合
- 継続的な医療を要する者に対して外来医療を提供する場合であって、おおむね四月以上継続して医療を提供することが見込まれる場合
■助産所における助産計画書の作成・説明義務(法第6条の4の3)
義務者:助産所の管理者(出張専門の助産師にあってはその助産師)
内容:妊婦・産婦(「妊婦等」)又はその者の家族に対し、助産を担当する助産師により助産・保健指導方針等の事項を記載した書面の交付及びその適切な説明を行うようにしなければならない。
具体的な説明事項
- 妊婦等の氏名及び生年月日
- 当該妊婦等の助産を担当する助産師の氏名
- 当該妊婦等の助産及び保健指導に関する方針
- 当該助産所の名称、住所及び連絡先
- 当該妊婦等の異常に対応する病院又は診療所の名称、住所及び連絡先
- その他厚生労働省令で定める事項(医療法施行規則第1条の8の4)
交付・説明を行う場面:妊婦等の助産を行うことを約束したとき
■医薬品・医療機器等の供給不足時の製造販売業者への報告徴収と情報公開(法第6条の4の4)
◇製造販売業者への報告徴収(第1項・第2項)
報告要求者:厚生労働大臣
報告を徴収する場面:医薬品・医療機器・再生医療等製品の供給不足・供給不足の可能性のため、医療を受ける者の利益が大きく損なわれるおそれがある場合
報告者:医薬品・医療機器・再生医療等製品の製造販売業者
報告事項:医薬品・医療機器・再生医療等製品の生産・輸入・販売・貸付けの状況
◇報告事項の公表(第3項)
公表者:厚生労働大臣
公表事項:医薬品・医療機器・再生医療等製品の製造販売業者から徴収した報告事項
法第6条の3の規定に基づき、平成18年の医療法改正により、医療機能情報提供制度が始まりました。詳細については、下記リンク先の厚生労働省ホームページをご参照ください。
第三部:医業・歯科医業・助産師業務等の広告
医療法第2章第2節は、医療機関や医療従事者が広告を行う際のルールを定めています。その目的は、患者が誤った情報に惑わされず、適切に医療を選択できるようにすることです。
■医業・歯科医業の広告に関する基本規制(法第6条の5)
◇虚偽広告の禁止(第1項)
虚偽禁止とされる広告の範囲:医業・歯科医業又は病院・診療所に関する広告等の表示であって、患者を誘引するための手段であるもの
本節の「広告」は「表示」全般を指し、商業的な宣伝に限定されません。病院・診療所の看板や掲示板も「広告」に該当します。
◇広告の内容・方法の基準(第2項)
- 他院より優良である旨の広告の禁止
- 誇大広告の禁止
- 公序良俗に反する内容の広告の禁止
- 患者等の主観・伝聞に基づく治療等の内容・効果に関する体験談の広告の禁止
- 治療等の内容・効果に関する、患者等を誤認させ得る治療等の前後の写真等の広告の禁止
◇広告できる内容(第3項)
- 医師・歯科医師や病院・診療所に関する情報であって、医療を受ける者による医療に関する適切な選択に資する情報
- 例:医療従事者の氏名・経歴、診療科、施設の設備、治療方法など
■診療科名の表示に関する規定(法第6条の6)
◇広告できる診療科名(第1項)
病院・診療所がその広告に診療科名を表示する場合、その診療科名は下記のものに限定される。
- 医業・歯科医業につき政令で定める診療科名
- 診療従事医師・歯科医師に対して厚生労働大臣が許可した診療科名
◇診療科名広告時の特則(第4項)
厚生労働大臣が許可した診療科名を広告するときは、許可を得た医師・歯科医師の氏名を併せて広告する。
■助産所等の広告に関する基本規制(法第6条の7)
◇虚偽広告の禁止(第1項)
虚偽禁止とされる広告の範囲:助産師の業務又は助産所に関する広告等の表示
◇広告の内容・方法の基準(第2項)
- 他の助産所より優良である旨の広告の禁止
- 誇大広告の禁止
- 公序良俗に反する内容の広告の禁止
- その他医療に関する適切な選択に関し必要な基準として厚生労働省令で定める基準
◇広告できる内容(第3項)
- 助産師や助産所に関する情報であって、医療を受ける者による医療に関する適切な選択に資する情報
- 例:助産師の氏名、助産所の設備、助産所の管理運営事項など
■広告規制に関する行政措置(法第6条の8)
◇立入検査等(第1項・第4項)
権限者:都道府県・政令で指定された保健所設置市・特別区の首長
権限行使の場面:医業・歯科医業・助産師の業務や病院・診療所・助産所に関する広告が次の条項の規定に違反しているおそれがあると認めるとき
- 第6条の5第1項~第3項までの規定
- 第6条の7第1項~第3項までの規定
権限の内容:首長は下記の措置を取ることができる。
- 違反のおそれのある広告をした者に対し、必要な報告を命ずる。
- 職員に、違反のおそれのある広告をした者の事務所に立ち入り、その広告に関する文書等の物件を検査させる。
権限の制限:
- 当該権限は、犯罪捜査のために認められたものではない。
◇中止・是正命令(第3項)
権限者:都道府県・政令で指定された保健所設置市・特別区の首長
権限行使の場面:医業・歯科医業・助産師の業務や病院・診療所・助産所に関する広告が次の条項の規定に違反していると認めるとき
- 第6条の5第2項若しくは第3項
- 第6条の7第2項若しくは第3項
権限の内容:首長は下記の措置を取ることができる。
- 違反広告をした者に対し、期限を定めて、当該広告を中止すべき旨を命ずる。
- 違反広告をした者に対し、期限を定めて、当該広告の内容を是正すべき旨を命ずる。
医業・歯科医業若しくは病院・診療所に関する広告や助産師の業務若しくは助産所に関する広告については、医療広告ガイドラインが定められています。詳細については、下記リンク先の厚生労働省ホームページをご参照ください。
終わりに
医療法第1章・第2章は、医療の理念から情報提供、広告規制まで、医療提供の根幹を支える重要な枠組みを定めています。
日々の業務では意識しづらい部分もありますが、これらの規定を理解しておくことは、患者との信頼関係を築き、適切な医療提供を行ううえで欠かせません。
本記事が、制度の背景や趣旨をつかむ一助となれば幸いです。今後も、医療現場で働く方々が安心して実務に取り組めるよう、関連法令や運用上のポイントをわかりやすく解説していきます。
