医療の質と安全を守るためには、現場で働く一人ひとりが制度の仕組みを正しく理解しておくことが欠かせません。
前回の記事では、医療の理念から情報提供、広告規制といった”医療の土台”となる考えを整理しました。今回は引き続き、医療法第3章が定める「医療の安全確保」に焦点を当て、医療機関に求められる体制整備や事故発生時の対応など、実務に直結するポイントをわかりやすく解説します。
本章では、以下のようにサマリーブロックの色を変えることで条文の対象が直感的に理解できるようにしています。
■ 行政の役割
■ 医療機関の役割
■ 医療安全支援センターおよび医療事故調査・支援センターの役割
第一部:医療の安全確保のための措置
医療法第3章第1節は、医療機関が安全に医療を提供するための「組織づくり」、「情報共有」及び「事故防止」の仕組みを定めています。
■医療安全管理体制の整備義務(法第6条の9)
一言サマリー:国・自治体は医療安全確保のための環境整備に努めることを定めた条文。
義務者:国・都道府県・保健所設置市・特別区
内容:医療の安全確保に関し必要な措置を講ずるよう努める。
- 例:医療の安全に関する情報の提供、研修の実施、意識の啓発
■医療事故の報告(法第6条の10)
一言サマリー:医療事故が起きたらセンターへ報告・遺族へ説明することを定めた条文。
◆医療事故の報告(第1項)
内容:医療事故発生の場合には、遅滞なく、下記の事項を報告しなければならない。
- 日時
- 場所・状況
- 病院等の名称・所在地・管理者の氏名・連絡先
- 医療事故に係る医療の提供を受けた者の性別、年齢その他の情報
- 医療事故調査(第6条の11第1項に規定する医療事故調査)の実施計画の概要
- 当該医療事故に関し管理者が必要と認めた情報
報告者:病院・診療所・助産所などの病院等の管理者
報告先:医療事故調査・支援センター(第6条の15第1項に規定)
”医療事故”とは
病院等に勤務する医療従事者が提供した医療に起因する、又はその疑いがある死亡・死産であって、医療法施行規則第1条の10の2第1項各号のいずれにも該当しないもの
◆管理者の説明義務(第2項)
義務者:病院等の管理者
内容:医療事故調査・支援センターへ報告する前に、遺族に対し、下記の事項を説明しなければならない。
- 医療事故が発生した日時、場所及びその状況
- 医療事故調査の実施計画の概要
- 医療事故調査に関する制度の概要
- 医療事故調査を実施するために解剖・死亡時画像診断を行う必要がある場合には、その同意の取得に関する事項
”死亡時画像診断”とは
MRIその他の画像診断装置を用いて死体の内部を撮影し、死亡の原因を診断すること
例外:遺族がない・遺族の所在が不明であるとき
遺族の範囲:
- 死亡した者の遺族
- 死産した胎児の父母
- 死産した胎児の祖父母
■医療事故の調査(法第6条の11)
一言サマリー:医療機関は事故原因を調査し結果を報告・説明することを定めた条文。
◆医療事故調査の義務(第1項)
義務者:病院等の管理者
内容:医療事故が発生した場合、速やかにその原因を明らかにするために必要な調査(「医療事故調査」)を行わなければならない。
◆医療事故調査における支援要請(第2項・第3項)
要請者:病院等の管理者
内容:医学医術に関する学術団体その他の厚生労働大臣が定める団体(「医療事故調査等支援団体」)に対し、医療事故調査を行うために必要な支援を求め、医療事故調査等支援団体は必要な支援を行う。
◆調査結果の報告(第4項)
報告者:病院等の管理者
内容:医療事故調査を終了したときは、遅滞なく、下記の事項を含む調査結果を報告しなければならない。
- 医療事故が発生した日時、場所及び診療科名
- 病院等の名称、所在地、管理者の氏名及び連絡先
- 医療事故に係る医療を受けた者に関する性別、年齢その他の情報
- 医療事故調査の項目、手法及び結果
報告先:医療事故調査・支援センター(第6条の15第1項に規定)
◆管理者の説明義務(第5項)
義務者:病院等の管理者
内容:医療事故調査・支援センターへ報告する前に、遺族に対し、第4項に規定する調査結果を説明しなければならない。
例外:遺族がない・遺族の所在が不明であるとき
■その他の医療安全確保のための措置(法第6条の12)
一言サマリー:医療機関には医療安全管理体制を整備する義務があることを定めた条文。
義務者:病院等の管理者
内容:第6条の11・第6条の12に規定するものに加え、医療安全管理体制に関する以下に掲げる措置を講じなければならない。
医療安全管理のための体制(医療法施行規則第1条の11第1項)
- 医療の安全確保の指針策定
- 医療安全管理委員会の設置
- 問題の原因究明のための調査分析
- 調査分析結果に基づく改善策の立案・実施・従業者への周知
- 当該改善策の実施の状況の調査・必要に応じた見直し
- 従業者に対する研修の実施
- 医療機関内における医療安全の確保を目的とした改善策の立案・実施
医療安全管理体制確保のための措置(医療法施行規則第1条の11第2項)
- 院内感染対策の体制確保に係る措置
- 医薬品安全管理のための体制確保に係る措置
- 医療機器安全管理のための体制確保に係る措置
- 診療用放射線安全管理のための体制確保に係る措置
- 高難度新規医療技術又は未承認新規医薬品等を用いた医療を提供するに当たっての必要な措置の努力
■医療安全支援センターの設置およびその役割(法第6条の13)
一言サマリー:都道府県等は医療安全支援センターを設置することを定めた条文。
◆医療安全支援センターの設置(第1項)
設置者:都道府県・保健所設置市・特別区(「都道府県等」)
設置の目的:法第6条の9に規定する措置を講ずるため
医療安全支援センターの事務:
- 患者・その家族からの病院等における医療に関する苦情・相談への対応、及び当該患者・家族・病院等の管理者への必要に応じた助言
- 病院等の開設者・管理者・従業者、患者・その家族、及び住民に対する医療の安全確保に関する情報の提供
- 病院等の管理者・従業者に対する医療安全に関する研修の実施
- その他医療の安全確保のために必要な支援の実施
◆設置の公表(第2項)
公表者:都道府県等
内容:医療安全支援センターを設置したときは、医療安全支援センターの名称・所在地を公示する。
◆委託の可否(第3項)
内容:都道府県等は、下記の者に対し、医療安全支援センターにおける業務を委託することができる。
- 一般社団法人
- 一般財団法人
- 医療安全支援センターの事務を適切・公正・中立に実施できる者として都道府県・保健所設置市・特別区の首長が認めた者
◆守秘義務(第4項)
義務者:医療安全支援センターの現在・過去における職員
内容:正当な理由がある場合を除き、医療安全支援センターの業務に関して知り得た秘密を漏らしてはならない。
■医療安全支援センターに対する国の役割(法第6条の14)
一言サマリー:国は医療安全支援センターに支援・助言を与えることを定めた条文。
医療安全支援センターにおける事務の適切な実施のため、国は下記の役割を果たす。
- 都道府県等に対する、医療安全関連情報の提供
- 医療安全支援センターの運営に関する必要な助言その他の援助
第二部:医療事故調査・支援センター
医療法第3章第2節は、医療事故調査を専門的に支援する「医療事故調査・支援センター」について定めています。
■医療事故調査・支援センターの指定(法第6条の15)
一言サマリー:厚生労働大臣が医療事故調査・支援センターを指定することを定めた条文。
◇医療事故調査・支援センターの目的とその指定(第1項)
センターの目的:医療の安全確保の支援
目的達成の手段:
- 医療事故調査の実施
- 医療事故が発生した病院等の管理者が行う医療事故調査への支援
センターの実態:一般社団法人・一般財団法人
センターの指定者:厚生労働大臣
センターの業務:第6条の16各号に規定する事項
◆指定の公表(第2項)
公表者:厚生労働大臣
内容:医療事故調査・支援センターを指定したときは、医療事故調査・支援センターの名称・住所・事務所の所在地を公示する。
◆変更事項の届出(第3項)
- 届出者:医療事故調査・支援センター
- 届出の場面:名称・住所・事務所の所在地を変更しようとするとき
- 届出先:厚生労働大臣
◆変更事項の公表(第4項)
公表:厚生労働大臣は、届出に係る変更事項を公示する。
■医療事故調査・支援センターの業務(法第6条の16)
一言サマリー:センターの業務内容(分析・助言・研修など)を規定する条文。
- 第6条の11第4項の規定による報告により収集した情報の整理分析
- 第6条の11第4項の規定による報告をした病院等の管理者に対する、前号の情報の整理分析結果の報告
- 第6条の17第1項の調査、及び同項の管理者・遺族への調査結果の報告
- 医療事故調査に従事する者に対する医療事故調査に係る知識技能に関する研修の実施
- 医療事故調査の実施に関する相談対応・必要な情報の提供・支援
- 医療事故の再発の防止に関する普及啓発の実施
- その他医療の安全の確保を図るために必要な業務の実施
■依頼に基づく医療事故調査・支援センターによる調査(法第6条の17)
一言サマリー:依頼に基づきセンターが事故調査を実施できることを定めた条文。
◆調査の依頼(第1項)
依頼者:医療事故が発生した病院等の管理者又は遺族
内容:医療事故調査・支援センターは、依頼に基づき、必要な調査を行うことができる。
◆協力要請(第2項・第3項)
要請者:医療事故調査・支援センター
内容:医療事故が発生した病院等の管理者に対して以下を要請する。
- 文書・口頭による説明の要請
- 資料提出の要請
- その他必要な協力の要請
管理者の対応:要請があった病院等の管理者は、これを拒んではならない。
◆公表・報告(第4項・第5項)
医療事故調査・支援センターは、以下の場面において、公表・報告を行う。
公表:
- 場面:第1項の管理者が第2項の規定による要請を拒んだ。
- 対応:拒まれた旨を公表することができる。
報告:
- 場面:第1項の調査が終了した。
- 対応:第1項の管理者及び遺族に調査結果を報告する。
■業務規程の制定(法第6条の18)
一言サマリー:センターは業務規程を作成し大臣の認可を受けることを定めた条文。
◆業務規程の制定と認可(第1項)
制定者:医療事故調査・支援センター
制定時期:第6条の16に掲げる調査等業務の開始前
業務規程の内容:
- 調査等業務の実施方法に関する事項
- 医療法施行規則第1条の13の5に定める事項
認可:調査等業務規程の制定・変更については、厚生労働大臣の認可を受けなければならない。
◆業務規程の変更命令(第2項)
命令者:厚生労働大臣
命令の場面:認可した業務規程が調査等業務の適正確実な実施上不適当となったとき
■事業計画・事業報告(法第6条の19)
一言サマリー:センターは事業計画・事業報告を作成し大臣に提出することを定めた条文。
◆事業計画の作成と認可(第1項)
医療事故調査・支援センターは、毎事業年度、調査等業務に関し下記の書類を作成し、厚生労働大臣の認可を受けなければならない。下記の書類を変更する場合も大臣の認可を受けなければならない。
- 事業計画書
- 収支予算書
◆事業報告書の提出(第2項)
医療事故調査・支援センターは、毎事業年度、調査等業務に関し下記の書類を作成し、厚生労働大臣に提出しなければならない。
- 事業報告書
- 収支決算書
- 貸借対照表
■休止・廃止の制限(法第6条の20)
一言サマリー:センター業務の休止・廃止には大臣の許可が必要であることを定めた条文。
医療事故調査・支援センターの調査等業務の全部・一部の休止・廃止には厚生労働大臣の許可を要する。
■守秘義務(法第6条の21)
一言サマリー:センター職員の守秘義務を定めた条文。
義務者:医療事故調査・支援センターの現在・過去における役員・職員
内容:正当な理由がある場合を除き、調査等業務に関して知り得た秘密を漏らしてはならない。
■医療事故調査等支援団体(法第6条の22)
一言サマリー:支援団体への業務委託とその守秘義務を定めた条文。
◆業務委託(第1項)
委託者:医療事故調査・支援センター
委託の範囲:調査等業務の一部
受託者:医療事故調査等支援団体
◆守秘義務(第2項)
義務者:医療事故調査等支援団体の現在・過去における役員・職員
内容:正当な理由がある場合を除き、委託された業務に関して知り得た秘密を漏らしてはならない。
■帳簿の備付・保存(法第6条の23)
一言サマリー:センターは調査に係る帳簿を備え、これを保存することを定めた条文。
医療事故調査・支援センターは、帳簿を備え、下記の事項を記載し、これを保存しなければならない。
保存期間:3年
■調査等業務に関する行政措置(法第6条の24)
一言サマリー:大臣はセンターに報告徴収・立入検査を行えることを定めた条文。
権限者:厚生労働大臣
権限行使の場面:調査等業務の適正な運営を確保するために必要があると認めるとき
権限の内容:厚生労働大臣は下記の措置を取ることができる。
- 医療事故調査・支援センターに対し、調査等業務・資産の状況に関し必要な報告を命ずる。
- 職員に、医療事故調査・支援センターの事務所に立ち入り、調査等業務の状況、帳簿書類その他の物件を検査させる。
権限の制限:当該権限は、犯罪捜査のために認められたものではない。
■厚生労働大臣の命令権限(法第6条の25)
一言サマリー:大臣はセンターに監督上の命令を出せることを定めた条文。
内容:厚生労働大臣は、医療事故調査・支援センターに対し、調査等業務に関し監督上必要な命令をすることができる。
権限の限度:医療法第3章第2節の規定を施行するために必要な範囲を超えない。
■指定の取消(法第6条の26)
一言サマリー:センターが不適切な場合、大臣は指定を取り消せることを定めた条文。
取消権者:厚生労働大臣
取消の内容:厚生労働大臣は、医療事故調査・支援センターの指定を取り消すことができる。
取消の場面:医療事故調査・支援センターが以下の各号のいずれかに該当するとき。
- 調査等業務を適正かつ確実に実施することができないと認められた。
- 指定に関し不正の行為があった。
- 医療法第3章第2節の規定、その規定に基づく命令や処分に違反したとき、又は第6条の18第1項の認可を受けた業務規程によらないで調査等業務を行った。
公表:厚生労働大臣は、指定を取り消したときは、その旨を公示する。
医療法第3章において規定される医療の安全確保のための施策については、下記リンク先の厚生労働省ホームページをご参照ください。
罰則(医療法第3章に関する罰則)
| 違反内容 | 条項 | 罰則 |
|---|---|---|
| 第6条の13第4項、第6条の21又は第6条の22第2項の規定に違反した | 第86条第3項 | 1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金 |
| 第6条の20の許可を受けないで調査等業務の全部を廃止した | 第88条第1号 | 30万円以下の罰金 |
| 第6条の23の規定による帳簿の記載をせず、虚偽記載をし、又は帳簿を保存しなかった | 第88条第2号 | 30万円以下の罰金 |
| 第6条の24第1項の規定による報告を怠り、虚偽報告をし、又は検査を拒み、妨げ、忌避した | 第88条第3号 | 30万円以下の罰金 |
終わりに
医療法第3章が規定する安全確保の仕組みは、医療現場を支える重要な基盤です。
日々の業務では意識しづらい部分もありますが、制度の背景を理解しておくことで、より安全で質の高い医療提供につながります。
本記事が、皆様の実務における判断や体制づくりの一助となれば幸いです。今後も、医療現場で働く方々が安心して実務に取り組めるよう、関連法令や運用上のポイントをわかりやすく解説していきます。
