これまで、相続人が故人の遺産に対して有する権利の割合を相続分といい、この割合は法律で決まっていることを説明してきました。しかし、この割合は目安であって、これに従わなくてはならないものではありません。今号の記事では被相続人の遺産から遺族が受け取る相続分の指定とその際に考慮すべき寄与分について説明します。
被相続人は相続分を指定できる
被相続人は、遺言で、共同相続人の相続分を定め、又はこれを定めることを第三者に委託することができます。このようにして定められた相続分を指定相続分といいます。相続分の指定にあたっては、共同相続人の一部についてのみ相続分を指定することもでき、その場合に指定されなかった共同相続人の相続分は、指定相続分以外の部分について、法定相続分に従うことになります。
遺産を公平に分けるために考慮すること
生前贈与が既に行われている場合又は遺贈が行われる場合に遺産分割が法定相続分又は指定相続分どおりに行われると共同相続人間に不公平が生じることがあります。そのため、相続で各相続人に分配する遺産の価額の算定に修正を加える必要がある場合があり、その際に特別受益と寄与分に当たる金額を考慮する必要があります。
特別受益
遺贈された財産、及び婚姻や養子縁組若しくは生計の資本として生前贈与された財産が特別受益に当たります。特別受益を受けた者が相続人の中にいる場合、特別受益の財産の価額を相続開始時の相続財産の価額に加えて各相続人に分配する遺産の価額を算定します(特別受益の持ち戻し)。ただし、遺贈財産は相続開始の時点では相続財産の中に含まれているので遺贈財産の価額を加える必要はありません。分配される財産の価額の決定後、特別受益者に分配される財産についてはその価額から特別受益の価額を差し引いて残額に当たる財産がこの特別受益者の相続分にあたり、相続財産の中から分配されます。
子供のそれぞれに生前贈与した財産を合算すると法定相続分通りになるように遺言の中で遺産分割を指定することが大事ですね。
しかしながら、被相続人が上記のような修正を望まないこと(特別受益の持ち戻しを免除すること)を贈与契約書や遺言で意思表示した場合にはこのような修正を行いません。また、婚姻期間が20年以上になる配偶者に対して居住用不動産を遺贈又は贈与したときは、被相続人が特別受益の持ち戻しの免除を意思表示したものと推定し、遺産分割のための相続財産の中からこの不動産分を除きます。
寄与分
共同相続人の中に被相続人の財産の維持・増加に貢献をした相続人がいた場合、その相続人の貢献が被相続人の相続財産の中に含まれている(寄与分)と考え、このことを考慮して相続分を修正します。この貢献としては
①被相続人の事業に関する労務の提供、
②被相続人の事業に関する財産上の給付、
③被相続人の療養看護、
④その他(例:被相続人の事業に関係のない被相続人への財産上の給付)
が挙げられます。
寄与分を考慮した相続分の具体的な修正方法としては以下の方法が挙げられます。相続開始時の相続財産全体の価額から寄与分を差し引いて各相続人に分配する遺産の価額を算定します。寄与分を有する相続人に分配される財産についてはその価額に寄与分を加えた総額に当たる財産が相続財産の中からその相続人に分配されます。
特別の寄与
例えば、相続人の配偶者は、被相続人を療養看護して被相続人の財産の維持又は増加に貢献しても、遺産分割手続きにおいて財産の分配を請求することはできませんでした。被相続人の親族によるこの様な貢献を特別の寄与、その特別の寄与をした親族を特別寄与者と呼び、民法改正により特別寄与者は、相続開始後、相続人に対してその寄与に応じた額の金銭の支払いを請求することができるようになりました。
夫の母の介護を手伝っていますが、これって無償労働じゃないですか?
民法の改正により、被相続人の療養看護に応じた額の金銭を相続人に要求することができるようになりました。
この特別寄与料を請求するには、被相続人に対する特別寄与者の寄与が無償であったことが条件として存在します。相続があったことを知ってから6か月を経過した後、又は相続の開始から1年が経過した後は特別寄与料の請求はできません。
例
- 相続発生時の被相続人の財産額:3000万円
- 子Aが被相続人の介護に要した金額:600万円
- 子Bが結婚時に結婚支度金として被相続人から得た金額:300万円
上記のような例を考えてみます。亡くなった被相続人の相続発生時の財産は3000万円でした。子Aが被相続人の介護のために支払ったお金は、寄与分に相当します。子Bが婚資として被相続人から得たお金は、特別受益に相当します。寄与分と特別受益を考慮した被相続人のみなし相続財産は以下の計算から算出されます。
3000万円-600万円+300万円=2700万円
この2700万円に相続分率を掛け算し、それぞれの寄与分と特別受益の額で補正して各々の具体的な相続分を決定します。この例では法定の相続分率を使用します。
- 配偶者:2700万円×1/2=1350万円
- 子A: 2700万円×1/4+600万円(寄与分)=1275万円
- 子B: 2700万円×1/4-300万円(特別受益)=375万円
ここで大事なことは、このルールは、遺留分の算出において考慮する贈与の期間(特別受益では相続発生前10年以内)や相続税額の算出において考慮する贈与の期間(相続発生前3~7年以内)とは無関係であるということです。被相続人が亡くなるまでに被相続人から受けた又は被相続人に施した全ての特別受益と寄与が対象になります。
まとめ
今号の記事は、遺産分割に当たって考慮すべき事項として特別受益、寄与分、及び特別の寄与を説明しました。今号の記事のポイントを以下にまとめます。
次号の記事は、遺産分割の二つの方法、及び一方の方法である遺産分割協議に参加できる人達について説明します。
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