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(終活マガジン第4号)知っておきたい相続の基礎知識:遺産分割協議

相続の説明 終活・相続

 前号の記事では遺産分割に当たって相続人と被相続人との間での利益の授受を考慮すべきである旨を説明しました。今号以降の記事では被相続人の死後の遺産分割の方法について説明します。遺産分割には幾つかの方式があり、今号の記事はそれらの方式の共通部分について説明しています。

遺産分割の方法と注意点

亡くなった父は、顔が広かったので弔問客の数が多くなります。葬儀にお金がかかることが予想されますが、遺産の中から葬儀の費用を出すことはできますか?

 相続は被相続人の死亡によって開始し、相続人が複数存在する場合にはその共同相続人が相続財産を暫定的に共有する形をとります。その後、相続財産は、各自の法定相続分を目安とし、第三号の記事で説明した事項を考慮した遺産分割を経てそれぞれに分配されることになります。

 各相続人は、この遺産分割までは、相続財産を管理する相続人代表に対し、金銭等の可分の財産であっても当人へのその支払いを求めることはできません。ただし、各相続人は、当面の必要生計費又は葬式の費用に充てるため、相続開始時の相続財産のうちの預貯金の額の3分の1に当該相続人に当てはまる法定相続分の割合を乗算した額の支払いを、150万円までを限度として求めることができます。

 相続人の一人が遺産分割までに相続財産の一部又は全部を処分してしまったとき、民法は、他の相続人全員の同意があれば、処分した相続人の同意を得ずに、処分された財産が遺産分割時に遺産として存在するものとみなすことができるとしています。また、相続財産の一部でも処分してしまうと次号の記事で解説する相続の単純承認を行ったことになる可能性があります。相続の限定承認を検討している場合は一部でも相続財産を処分しない方が安心です。

遺産分割の効力

 相続が発生すると共同相続人が相続財産を暫定的に共有することになりますが、遺産の分割がなされるとその効力は相続開始時に遡って生じます。ただし、遺産分割は第三者の利益を害することはできません。

(例)被相続人が預貯金、不動産、及び株式を財産として有している場合、相続開始時には相続人A、相続人B、及び相続人Cが預貯金、不動産、及び株式を三者で共有するが、預貯金を相続人A、不動産を相続人B、及び株式を相続人Cに配分する旨の遺産分割が相続人の間で決まった場合、各相続人は相続開始時からそれらの財産を所有していたことになる。仮に相続人Aが遺産分割前に法定相続分に当たる不動産の持ち分を第三者に売却し、後に遺産分割で相続人Bがその不動産の全部を相続することになった場合、その第三者がその不動産の持ち分を登記していたら相続人Bはその不動産の全部を当然に自分のものだと主張することはできない。

遺産分割の方式

遺言による遺産分割の指定

 被相続人は、遺言で遺産分割の方法を指定することも、第三者に指定を委託することもできます。被相続人は、遺言の中で各相続人の相続分の割合を指定することもできますし、具体的な財産の相続を指定することもできます(判例で、遺産分割方法の指定であると判示されています)。被相続人は、相続開始の時から5年を超えない期間内における遺産の分割を禁止することもできます。

遺産分割協議による指定

 共同相続人は、いつでも共同相続人の協議で遺産の全部又は一部の分割をすることができます。共同相続人間で協議が調わないとき、又は協議ができないとき、各共同相続人は、遺産の全部又は一部の分割を家庭裁判所に請求することができます。家庭裁判所は、まず調停により分割を試み、調停による分割が調わないときは審判による分割を行います。

 遺産分割協議は、書面を作成し、各相続人が押印をして遺産分割協議書とすることで行います。遺産分割協議書は、被相続人所有の不動産や預貯金の名義変更の手続きにも必要になります。

 遺産分割協議に期限はありませんが、民法改正により相続開始から10年を経過した後にする遺産分割協議では特別受益及び寄与分を考慮せずに遺産分割をすることができます。

相続人の中に事情がある者がいる場合

私の兄はアメリカに渡ってから音信不通で生きているのかすらわかりません。兄が遺産分割協議に参加できないのですが、どうしたらいですか?

 遺産分割協議は、共同相続人全員で行う必要があり、相続人の一部を欠いた遺産分割協議は無効になります。共同相続人の中に行方不明者がいるときは、その者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に対して「不在者の財産管理人」の選任を申立て、その財産管理人がその行方不明者の法定代理人として遺産分割協議に参加します。

 また、相続人に未成年者又は認知能力が著しく低下した成年被後見人等の制限行為能力者がいる場合、その未成年者又は制限行為能力者の代理人がその者の代わりに遺産分割協議に参加します。ただし、その未成年者の法定代理人(親権者又は未成年者代理人)が共同相続人の一人である場合(例えば、夫が亡くなった妻とその夫との間の未成年の子による相続の場合)、その未成年者のための遺産分割協議への参加は利益相反行為になるため、未成年者のために特別代理人の選任を要求する必要があります。

配偶者居住権

 配偶者居住権とは、居住している住宅の所有権を有しない被相続人の配偶者が、被相続人の死後もその住宅に住み続けるようにするために定められた権利です。その特徴を以下に挙げます。

  • 被相続人の配偶者は、相続の結果として住宅の所有権の全部を相続していなくても相続発生時に被相続人と居住していた住宅に住むことができる
  • 遺産分割協議によって配偶者居住権を取得するものとされたとき、又は遺言により遺贈の目的とされたときに配偶者は配偶者居住権を取得する
  • 配偶者と被相続人との婚姻期間が20年以上であるとき、配偶者居住権の遺贈についても特別受益の持ち戻しがあったものとする
  • 被相続人が第三者と共有していた住宅については配偶者居住権を設定できない
  • 被相続人から住居の所有権を相続したその住居の所有者は、配偶者居住権を取得した被相続人の配偶者に対して配偶者居住権の設定の登記を備えさせる

 配偶者は、遺贈、死因贈与契約、又は遺産分割協議により配偶者居住権を取得できます。配偶者居住権の対象となった住居の所有者は、被相続人の配偶者に配偶者居住権の登記を備えさせる義務を負います。配偶者居住権の存続期間は、原則としては配偶者の終身の間ですが、遺産分割協議又は遺言によって別途定めることができます。

 配偶者は、配偶者居住権を取得できなかったときでも、配偶者短期居住権を取得できます。配偶者短期居住権の存続期間は、遺産分割で居住建物の帰属が確定した日、又は相続開始時から6か月を経過する日のどちらか遅い日まで、あるいは居住建物取得者による配偶者短期居住権の消滅申し入れの日から6か月を経過する日までになります。配偶者が、欠格又は廃除により相続権を有していなかった場合には配偶者短期居住権を取得できません。

 相続財産である住居について遺贈により配偶者居住権を設定すると、二次相続の時に配偶者居住権の評価額の分だけ相続財産の評価額が低くなるという副次的な効果もあります。詳しくは税理士にご相談ください。

まとめ

 今号の記事は、遺産分割について説明しました。今号の記事のポイントを以下にまとめます。

  • 各相続人に配分する遺産の分割は、法定相続分を目安とし、特別受益及び寄与分を考慮して決定する
  • 各相続人は、遺産分割までは相続財産の一部の当人への支払いを要求することができない 
  • 遺産分割協議に期限はない
  • 相続開始から10年を経過した後にする遺産分割協議では特別受益及び寄与分を考慮しない
  • 相続人の中に行方不明者又は未成年者若しくは制限行為能力者がいる場合にはその者の代理人が遺産分割協議に参加する

 行政書士は、相続人のために被相続人の相続人調査及び財産調査をし、それらの調査を基に遺産分割協議書を作成することができます。次号の記事では相続人は、相続を承認することも放棄することもできることを説明します。

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