これまで、いろいろな海外の国への移住にペットを連れていきたいときの移住先の国がペットに求めている要件と飼主に求めている提出書類を説明してきました。読者の皆さんの中には、移住というほどの長期間の滞在を予定しているわけではないが、諸般の事情でどうしてもペットと一緒に海外に短期滞在したいという方がいらっしゃるかもしれません。今回の記事は、そのような読者の方に読んでもらいたい記事です。
日本入国の要件を満たしてから出かけるべき理由
日本が狂犬病清浄国であることの利点
狂犬病は、発症してしまうと有効な治療法がない致死率ほぼ100%のウイルス性の病気です。そのような恐ろしい病気の発生を防ぐため、ペットの飼主の長年の狂犬病ワクチン接種に対する協力によって日本では1957年以降狂犬病が発生しておらず、そのために日本は狂犬病の清浄国として扱われています。そのため、日本から外国へペットを連れて行くときに渡航先の国が日本のペットに課す条件は、狂犬病の発生が認められる国のペットに課されている条件と比べると緩いものになっています。
例えば、ヨーロッパの多くの国々が日本のペットに対しては渡航前の狂犬病ワクチン接種の回数を一回でよいとし、狂犬病抗体価検査を免除しています。これに対し、狂犬病発生国からペットを持ち込む場合には狂犬病抗体価検査が必須であり、抗体価が基準に満たない場合は二回目、三回目の狂犬病ワクチン接種を義務付けています。
ペットを海外短期滞在に連れていく際の注意点
日本の外では狂犬病が発生している地域が多いのが現状です。日本の検疫制度は、狂犬病ウイルスの日本国内への侵入を防ぐために比較的に厳しいものになっています。ペットが外国の緩い要件を満たしていればその外国に入国できますが、ペットが外国に短期滞在した後に飼い主と共に日本に帰国したときに日本再入国のための要件を満たしていなければペットだけが最長で180日間の係留処置を受けることになります。飼い主が日本に帰国したときにペットと一緒にすぐに帰宅するためにはペットが外国に比して厳しい日本の要件をクリアしていることが必要なのです。
この記事では2024年4月の時点における日本の動物検疫所のホームページの記載から、ペットの犬猫を短期海外滞在に連れて行くときのペットの要件と飼い主がする手続きを説明します。
短期海外滞在へ連れていけるペットの要件
ペットの犬猫と海外へ出国するとき、ペットにも出国手続きが必要です。その手続きを受けることができる犬猫は、次の(1)~(4)の要件を満たすことが求められます。これらの要件の全てを満たすことが、海外短期滞在の後に日本に帰国してペットが施設に係留されることなく飼い主と共に帰宅するための要件です。
- マイクロチップ(ISO11784又はISO11785規格のマイクロチップ)をペットに装着する
- 一回目の狂犬病ワクチン接種を91日齢以降のペットに行う
- 一回目のワクチン接種から30日以上かつ1年以内に二回目の狂犬病ワクチン接種を行う
- 二回目の狂犬病ワクチン接種の後に採血して狂犬病抗体価検査を行う
- イヌについてはレプトスピラ症も輸出検査対象であるのでレプトスピラ症に対するワクチンも接種する
狂犬病ワクチンは不活化ワクチン又は組換えワクチンであり、生ワクチンは認められていません。日本出国前に二回目のワクチン接種の有効期間が切れてしまう場合は二回目のワクチン接種の有効期間内に追加接種を行います。
狂犬病抗体価測定は、日本の農水省指定の検査施設で実施されることを要します。動物病院で採血してもらい、動物病院から指定検査施設に採取した血液試料を農水省指定検査施設へ送付してもらってください。二回目のワクチン接種と同日に採血することもできます。狂犬病抗体価検査の基準値は0.5IU/ml以上です。検査結果は採血日から2年間有効です。
狂犬病ワクチン接種後に抗体価検査のための採血を行い、その結果が基準値以上であった場合、ペットが日本に再入国するには採血の日から180日間以上が経過してから渡航先の動物病院でペットが狂犬病ではないことを証明してもらい、再入国することが要件です。
例えば、ペットが既に渡航先の国の要件に合致しているため、二回目の狂犬病ワクチン接種後にすぐにその国に渡航したとします。7日間の滞在の後に日本に帰ってくると、狂犬病抗体価検査の基準を満たしていても、ペットは残りの約170日間を空港の敷地脇の係留施設で過ごすことになります。その間は飼主が係留に係る全ての費用を支払います。この例の場合、ペットが係留されないようにするには飼い主は、二回目の狂犬病ワクチン接種後に約170日間の待機時間を過ごした後に海外へ向けて日本を出国するべきでした。