海外留学や海外赴任が決定し、パスポートおよびビザの手続きを済ませた人が渡航前~渡航直前に行う役所の手続きを、海外生活経験者である行政書士が解説します。
1年未満の海外留学・海外勤務の場合
住民票関係
海外留学・海外勤務の期間が1年未満の予定である場合には、住所地の市区町村の役所への「海外転出届」の提出は不要です。
海外転出届を提出しないため住民票は国内に残されていますが、海外滞在予定が3か月未満の場合には「たびレジ」に登録し、3か月以上になる場合には「在留届」を提出します。
年金・保険関係
国内の年金・健康保険・介護保険等については加入したままにしておきます。海外滞在中に現地の医療機関で診療を受けた場合、帰国後に「海外療養費制度」を用いることで医療費の一部について払い戻しを受けることができます。
海外療養費制度に基づく払い戻しの申請窓口:
- 健康保険組合の窓口
- 健康保険協会の窓口
- 市区町村の窓口(市町村国保加入者の場合)
義務教育関係
- 子供が住所地の市区町村立の小・中学校に通っている場合:
- 海外転出および帰国に伴う子供の休学および復学について学校と事前相談する。
- 「海外学校入学・在籍届」を当該自治体の教育委員会へ提出する。
- 子供が私立・都道府県立・国立等の小・中学校に通っている場合:
- 学校に問い合わせをする。
- 子供が滞在先国の学校に通う予定がある場合:
- 海外の学校への入学・編入に必要な書類を出国までに日本の学校から取り寄せておく。
運転免許証関係
1年以上の海外留学・海外勤務の場合と同じです。
1年以上の海外留学・海外勤務の場合
住民票関係
海外留学・海外勤務の期間が1年以上の予定である場合には、住所地の市区町村の役所に「海外転出届」を提出し、住民票を抜く必要があります。
届出期間:転出14日前から転出前日まで
海外滞在期間が1年以上になる予定の人は在留届を提出します。
健康保険・介護保険・雇用保険関係
国民健康保険(市町村国保または国民健康保険組合)加入者の場合
海外転出予定者が海外転出届を提出すると国民健康保険は脱退となるため、資格喪失手続きが必要です。
手続きの時期については、各市区町村の保険課または各国民健康保険組合に問い合わせる必要があります。
また、納付書で保険料を支払っている場合には、海外転出後に還付があるのでそのための手続きが必要です。
被用者保険加入者の場合
勤務先との雇用関係を終了する場合
海外転出予定者が海外転職する場合には資格喪失手続きが必要です。
勤務先との雇用関係が継続する場合
海外転出予定者は健康保険および雇用保険への加入を継続します。ただし、介護保険は日本居住者のみが対象となるため、海外転出予定者が介護保険の第2号被保険者(40歳以上65歳未満)である場合には、「介護保険適用除外等該当・非該当届」を勤務先の事務担当者へ提出します。
海外転出者は、日本の健康保険への加入状態を維持したまま、現地の健康保険にも加入することになります。
年金関係
国民年金被保険者の場合
海外転出予定者が海外転出届を提出すると国民年金の強制加入被保険者ではなくなるため、資格喪失手続きが必要です。
国民年金の第3号被保険者(会社員等の配偶者)も役所で資格喪失手続きを行う必要があります。
手続きの時期については、住所地の市区町村の国民年金担当窓口に問い合わせる必要があります。
また、年ごと又は半期ごとに一括して国民年金を支払っている場合には、海外転出後に還付があるのでそのための手続きが必要です。
海外滞在期間中も、国民年金への任意加入が可能です。その場合、年金保険料の納付を代行する国内協力者または年金保険料の引き落とし口座を届け出ることが必要です。
厚生年金被保険者の場合
勤務先との雇用関係を終了する場合
海外転出予定者が海外転職する場合には資格喪失手続きが必要です。この場合も国民年金への任意加入が可能です。
国民年金への任意加入については、住所地の市区町村の国民年金担当窓口に問い合わせる必要があります。
勤務先との雇用関係が継続する場合
海外転出予定者は厚生年金への加入を継続します。
滞在先国年金制度への二重加入を防ぐ社会保障協定
海外において就労する人は、原則としてその国の年金制度等に加入することになりますが,日本との社会保障協定が締結されている国では、日本からの派遣による一時的な就労(原則5年以内)の場合、日本の年金制度のみに加入することになり、その国の年金制度等への加入が免除されます。
社会保障協定締結国(2025年12月1日現在):
- ドイツ
- イギリス
- 韓国
- アメリカ
- ベルギー
- フランス
- カナダ
- オーストラリア
- オランダ
- チェコ
- スペイン
- アイルランド
- ブラジル
- スイス
- ハンガリー
- インド
- ルクセンブルク
- フィリピン
- スロバキア
- 中国
- フィンランド
- スウェーデン
- イタリア
- オーストリア
- Step 1社会保障協定適用証明書交付申請書の提出
- 被用者は事業主を介して日本年金機構社会保障協定担当へ提出
- 自営業者は住所地を管轄する年金事務所へ提出
- 提出期間は海外での就労予定年月日または延長開始年月日の6か月前から
- Step 2適用証明書の交付
- 審査の結果、申請が認められると適用証明書が交付される。
- Step 3適用証明書の提出
- 渡航後、協定相手国内の勤務先に適用証明書を提出する。
義務教育関係
海外転出前の手続き
- 子供が住所地の市区町村立の小・中学校に通っている場合:
- 海外転出に伴う子供の休学について学校と事前相談する。
- 海外転出届の提出により、市区町村立学校の学籍から除籍となる。
- 子供が私立・都道府県立・国立等の小・中学校に通っている場合:
- 学校に問い合わせをする。
- 子供が滞在先国の学校に通う予定がある場合:
- 海外の学校への入学・編入に必要な書類を出国までに日本の学校から取り寄せておく。
帰国後の手続き
子供が義務教育年齢の場合には、帰国後に海外からの転入届の手続きをすると就学指定校通知書が発行されます。これを学区の小・中学校に提出して通学の手続きをします。
児童手当関係
- 児童手当受給者(父母のいずれか)のみ海外転出する場合:
- 配偶者が引き続き日本国内にて児童を監護する場合には、配偶者から改めて児童手当の認定請求をする。
- 父母がともに海外転出し、児童のみが日本国内に居住する場合:
- 祖父母などの国内居住者を「父母指定者」として指定する。
- 児童のみが海外転出する場合:
- 児童が海外に居住している場合、その児童は児童手当の対象とはならない。
- 児童が留学を理由として海外に住んでいて、以下の要件のすべてを満たしている場合には、児童手当の対象となる場合がある。
- 日本国内に住所を有しなくなった前日までに日本国内に継続して3年を超えて住所を有していたこと
- 教育を受けることを目的として海外に居住し、父母と同居していないこと
- 日本国内に住所を有しなくなった日から3年以内であること
- 家族全員が海外転出する場合:
- 児童手当は、日本国内に居住していないと支給されない。
運転免許証関係
国外運転免許証の準備
滞在先で自動車を運転する予定がある人は、国外運転免許証を取得します。ただし、国外運転免許証は、ジュネーブ条約締結国においてのみ有効です。国外運転免許証の有効期間内に現地の運転免許を取得するようにしましょう。
申請期間:運転免許証の有効期間
申請の場所:運転免許試験場または運転免許更新センター
国外運転免許証の有効期間:1年間(1年以内に運転免許証の有効期限が来る場合にはそれまで)
運転免許証の特例更新
- 海外赴任等の予定がある場合:更新期間前でも運転免許証の更新が可能である。
- 海外赴任中の場合:一時帰国の際に運転免許証の更新が可能である。
- 運転免許の失効後に帰国した場合:失効後3年以内かつ帰国後1か月以内であれば、学科試験および技術試験を免除されて運転免許証を取得することができる。
- 運転免許の失効後に帰国し、かつ外国等の有効な運転免許証を有している場合:日本の運転免許の失効後の期間を問わず、学科試験および技術試験を免除されて運転免許証を取得することができる。
更新の場所:運転免許試験場または運転免許更新センター
マイナンバーカード関係
日本国籍者は、海外転出後も国外転出者向けマイナンバーカードを利用できることになりました。
海外転出前に国外転出者向けマイナンバーカードに切り替える方法
海外転出前に有効なマイナンバーカードを持っている人は、転出予定日の前日までに切替手続きをすることで海外転出後も継続してマイナンバーカードを利用することができます。
手続きの場所:住所地の市区町村の役所
手続きの時期:海外転出届の届出時(転出14日前から転出前日まで)
切り替えなかった場合:切替え手続きをせずに海外へ転出すると、それまでのマイナンバーカードは海外転出予定日に失効します。
海外転出後に国外転出者向けマイナンバーカードを申請する方法
海外転出予定日の前日までに切替手続きをしなかった日本国籍者および現在マイナンバーカードを持っていない海外在住の日本国籍者もマイナンバーカードを申請することができます。ただし、現在マイナンバーカードを持っていない海外在住日本国籍者は、2015年10月5日以降に国外転出をしている人に限ります。
- Step 1国外転出者向けマイナンバーカードの申請(オンライン)
交付申請に必要な顔写真を用意し、国外転出者向けマイナンバーカードオンライン申請サイトより申請を行う。マイナンバーカードの受取場所を指定する。
- Step 2交付通知メールの受信
審査を経てカード交付の準備が整ったところで交付通知メールが発送される。
- Step 3マイナンバーカードの受け取り(対面)
本人確認書類を持参して、指定した受取場所にてマイナンバーカードを受け取る。
- 本籍地または本籍地以外の市区町村にて受け取る場合:有効な旅券およびその他の本人確認書類1点(運転免許証や年金手帳等)
- 在外公館にて受け取る場合:有効な旅券
税金関係
日本に生活の拠点がない「非居住者」が行う手続きについて説明します。
なお、単身で海外赴任し、家族は日本に残る場合や国内源泉所得があり、頻繁に帰国する場合などは「居住者」と判断されることがあります。非居住者と居住者のどちらに該当するかを自己判断するのは避け、税務署に確認するのが確実です。
住民税
- 住民税は、1月1日の時点で住民票がある市区町村において課税され、年の途中で海外転出しても支払わなくてはならないため、海外転出予定者は納税管理人を当該市区町村へ届け出る必要がある。
- 給料から住民税を徴収(特別徴収)されていた人は、国内での最後の給与から年度内の税額の一括徴収か、または納税通知書による徴収(普通徴収)のどちらかを選択する。普通徴収を選択した場合には、納税通知書は納税管理人に届き、納税管理人が納付の責任を負う。
- 普通徴収により住民税を支払っていた人は、出国前に年度内の税額を全額納付するか、納税管理人に納付を委任する。
固定資産税・都市計画税
- 国内に住居などの固定資産税・都市計画税の対象となる資産を維持したまま海外転出する場合、海外転出予定者は納税管理人を対象資産がある市町村(東京23区の場合は東京都)へ届け出る必要がある。この場合、住民税の納税管理人の届出とは別に固定資産税・都市計画税の納税管理人を届け出なくてはならない。
- 口座振替により固定資産税・都市計画税を支払うことが可能であるが、口座振替により支払う場合でも納税管理人の届出は必要である。
所得税
- 海外勤務で得た給与は国外での所得となるため、所得税の課税は行われない。
- 内国法人の役員として国外で勤務した場合には、その給与は日本国内で課税される。ただし、その内国法人の使用人として常時海外において勤務を行う場合には、この限りではない。
- 海外での給与所得とは別に海外転出後に日本国内で所得が発生する場合には、納税管理人を納税地の税務署に届け出る必要がある。
- 海外転出後に日本国内で所得が発生しないが、海外転出が7月1日以降であり、予定納税額の納付義務が確定している場合には、海外転出時までに確定申告および納税を済ますか、または納税管理人を納税地の税務署に届け出る必要がある。
- 海外転出後に日本国内で所得が発生せず、予定納税額の納付義務が確定していることもないが、収入源が複数だったり、源泉徴収の対象となっていない収入があったり、海外転出までの収入が2000万円を超えている場合には、海外転出時までに確定申告および納税を済ますか、または納税管理人を納税地の税務署に届け出る必要がある。
- 非居住者の納税地としては実家または事務所・収益不動産の所在地があげられる。
- 海外転出後も確定申告の必要がある場合には、国外転出者向けマイナンバーカードに切り替えることにより、e-Taxを介して自分で確定申告をすることができる。
その他
印鑑登録
海外転出届を提出し、住民票が除かれると、印鑑登録は抹消されます。そのため、海外滞在中に日本での種々の手続きのために印鑑証明を求められた場合には、以下の対応が可能です。
- 手続きのために一時帰国する予定がない場合:在外公館において領事の面前で署名(又は拇印)を行い、領事がこれを証明する署名証明を受ける。
- 手続きのために一時帰国する予定がある場合:一時帰国の際に公証役場において公証人の面前で署名を行い、公証人がこれを証明する私署証書の認証を受ける。
公共料金関係
公共料金関係については、利用休止や解約の時期を指定できるため、余裕をもって手続きすることができます。
電気・ガス・水道・NHK
家族全員が海外転出する場合には、各事業者に対し、利用停止・中止の手続きをします。
インターネット・電話
- インターネットについては、利用中のプロバイダーに対し、解約の手続きをする。
- 電話については、解約または利用休止の手続きをする。
- 利用休止期間には上限があり、その更新手続きをしないままでいると契約解除になる。
- SIMフリースマートフォンおよび渡航先で利用可能なSIMの購入を検討する。
- 海外で利用するスマートフォンに国内銀行のオンラインバンキングアプリおよびLINEやWhatsAppなどの通話アプリをインストールする。
郵便
旧住所に届いた郵便物を実家等に転送してもらうため、郵便局へ転送届を提出します。
銀行・クレジットカード
- 海外から口座を確認できるよう、オンラインバンキングの利用手続きをする。
- 少なくとも1つの口座について、海外のATMでも利用可能な銀行カードを用意しておく。
- 口座引き落としで料金を支払うサービスを利用している場合には、サービスの解約も含めて対応を検討する。
- 海外に持ち出せない重要な書類を預けるため、貸金庫の利用を検討する。
- 利用頻度が少ないクレジットカードについて、サービスの解約を検討する。
自家用車等
- 家族が利用継続する場合には、その家族の名義に変更する。
- 売却を検討する。
- 廃車を検討する。
海外へ転出した人が帰国後に最初に行う手続
海外転出した日本国籍者が帰国後に初めて役所で行う手続きは転入届です。
手続きの場所:居住する住所地の市区町村の役場
手続き期間:転入から14日以内
必要書類:
- パスポート(自動化ゲートを利用して日本へ入国した場合は、帰国時の飛行機搭乗券の半券等、入国日が確認できるものも)
- 戸籍全部事項証明書(戸籍謄本)(原則発行から3か月以内のもの)
- 戸籍の附票(原則発行から3か月以内のもの)
- 国外に転出した時の住民票除票の写し(住民票に旧氏が記載されていた方で、引き続き当該旧氏を住民票に表示する人のみ提出)
本籍地において転入届を提出する場合には、戸籍全部事項証明書および戸籍の附票の提出の必要について問い合わせてください。
まとめ
私自身も海外生活を経験しましたが、渡航前はやるべきことが多く、忙しさのあまり見落としそうになる手続きもあります。
本記事でご紹介したように、住民票・健康保険・年金・マイナンバー・子供の学校関係など、渡航前の役所手続きにはいくつかの重要なポイントがあります。
海外留学・海外赴任を控えている方にとって、この記事がお役に立てれば、こんなに嬉しいことはありません。
また、行政書士は、自動車やオートバイの名義変更、海外転出後の住民票・戸籍謄本・課税証明書の代理取得についてサポート可能です。海外渡航前は何かと忙しくなりますので、不安や疑問があればお近くの行政書士にご相談ください。
