信託契約の構成
ペットの信託についての記事の中でも説明しましたが、下図に示すように信託契約は委託者、受託者、及び受益者の三者間で締結されます。信託契約では委託者、受託者、及び受益者の三者の存在に加えて信託財産、信託目的、及び信託行為を明らかにします。終活における信託では高齢者である委託者が信頼できる者を受託者に指定し、その受託者が委任者に代わって信託契約書に記載の事務(財産の運用)を執行します。
受託者
受託者は、委託者が信頼できる人物であれば誰でもよいのですが、終活における信託の利用では委託者が後継者と目する人物が受託者であることが一般的です。また、信託では第一受託者、第一受託者が辞任したり不在になったりした場合に就任する第二受託者等を契約の中に定めることができます。ただし、信託契約の中で別段の定めがなければ受託者の辞任には委託者と受益者の同意が必要であるとされています。
受託者は、事務執行の対価として信託報酬を得ることも無償で事務を執行することもできます。
受益者
受益者は委託者本人である場合とその他の者である場合があり、前者を自益信託、後者を他益信託といいます。他益信託の場合は委託者の配偶者を受益者にすることが考えられますが、障害を持つ子を受益者とする信託の例もあります(いわゆる「親亡き後の信託」)。信託では第一受益者を委託者本人とし、第一受益者死後の第二受益者を委託者の配偶者に、第二受益者死後の第三受益者を…のように契約を作成することができます。これを受益者連続型信託と言います。この受益者連続型信託は、受益者連続型信託の契約締結から30年経過したときの時点で現存する受益者が死亡するまでと信託法によって定められています。契約の中で受益者候補を挙げていくことはできますが、永遠に信託契約が続くということではありません。
受益者連続型信託
例えば、下の図に見られるように、子がいる相手と結婚した人の財産は配偶者と自分の子に引き継がれ、被相続人の財産は配偶者と実子の固有財産になります。そうなると被相続人の遺言ではその配偶者の財産に関する遺産分割を指定することはできないため、配偶者が得た遺産は、配偶者の死亡時に配偶者の前婚でできた子と後婚でできた子との間で分割される可能性があります。
仮に被相続人の死後にその配偶者が亡くなり、次にその配偶者の前婚での子が亡くなった場合、その前婚での子に直系子孫が存在せず、且つ、配偶者の前夫が生きていれば、配偶者の前婚での子の直系尊属という地位で配偶者の前夫が被相続人の遺産の一部を相続することになります。
信託は、このような財産の移動の防止に活用できます。被相続人が信託契約において自分の子の一人を受託者、配偶者を第二受益者とし、受託者ではない自分の子を第三受益者、受託者である自分の子を信託終了時の残余財産の帰属権者に指定することで自分の子孫のみに自分の財産を承継させることができます。このような信託の契約を受益者連続型信託契約といいます。
信託財産
金銭、不動産、動産、債権、有価証券、及び特許権などの金銭評価することができるプラスの財産を信託財産にすることはできますが、債務などのマイナスの財産は信託財産にすることができません。信託契約書に具体的な財産を明示してこれを信託財産とします。
委託者が所有する財産の全てを信託財産にする必要はありません。信託財産にすると自分の財産ではなくなるため、委託者が自分で自由に使える財産を分けておきます。信託の目的に応じて信託する財産を決めるとよいと思います。信託契約締結後、信託財産である不動産については信託登記を行い、金銭については銀行の信託口口座にその金銭を預けます。信託口口座を開設できる銀行は限られており、抵当権等が設定されている不動産については債権者との協議が必要であるため、信託契約の前にそれぞれ確認が必要です。そのような不動産を信託財産にすると受託者が債務を引き受けることを求められることになります。また、農地を信託財産にするには農業委員会の許可が必要であり、借地を信託財産にするには地主の承諾が必要です。
委託者から信託された財産は、名義上は受託者の財産になりますが、信託財産は受託者からも独立したものとして扱われます。そのため、たとえ受託者が信託期間中に破産したとしても債務の清算に信託財産が利用されることはありません。
信託の目的
信託法は、信託にはその目的を定めることを要するとしています。それは、信託の目的を達成するため受託者が信託契約の中で規定される事務を行うとされており、信託の目的が受託者の権限、及び信託の終了等に影響するからです。例えば、委託者に代わって信託財産の管理、運用、及び処分を行うことによって受益者の生活のための資金を給付し、さらには資産を委託者の次代に承継させることを目的とすることができます。
信託行為
信託行為とは、委託者、受託者、及び受益者、並びに信託の目的及び信託財産を明らかにした信託契約書を作成し、委託者、受託者、及び受益者の三者間で信託契約を締結することです。なお、信託の方法には信託契約に加えて遺言信託及び自己信託というものがありますが、この記事は終活期における信託の利用を話題にしているため、遺言信託及び自己信託における信託行為については解説を行いません。
受託者の権限と義務
受託者は、信託契約書の中で委託者から任された事務を執行する権限を有します。その事務には、信託財産の管理、信託財産の処分、信託目的を達成するための権利取得、信託目的を達成するための債務負担、及び信託目的を達成するための訴訟行為が挙げられます。具体的には、信託財産である不動産を管理すること、信託財産である金銭を定期的に受益者に給付すること、信託財産の維持管理のための費用を受託者の財産で負担すること、信託財産である不動産に関して提起された訴訟の当事者になること等が挙げられます。
受託者には種々の義務が信託法によって課されていますが、特筆すべき義務は分別管理義務、信託事務処理状況の報告義務、並びに帳簿等の作成、報告、及び保管義務です。既に説明した不動産の信託登記と信託口口座への金銭預入は分別管理のための手段です。
- 分別管理義務:信託財産と受託者の財産を別々に管理する義務
- 信託事務処理状況の報告義務:委託者又は受益者の求めに応じて信託事務の処理状況を報告する義務
- 帳簿等の作成、報告、及び保管義務:信託事務の執行に関する経費等を表す書類を受け取り、帳簿等を作成し、その内容を受益者に報告し、そしてこれらの書類と帳簿等を保存する義務
信託期間の始期と終期
後見の場合では後見は、被後見人の判断能力が著しく低下し、家庭裁判所への請求により後見人又は後見監督人が選任されたときに始まります。信託の場合でもこのよう不確定の時期を信託事務開始の時期として契約の中で定めることができますが、これを勧めていない専門家もいます。
信託契約の中で信託の終了を定めます。終了事由としては信託目的の達成、信託目的の達成以外の契約の中で定めた終了事由の発生を挙げることができます。さらに、受託者と受益者が一致する状態が一年間継続したこと、及び受託者が存在しない状態が一年間継続したことが事由として挙げられます。委託者と受益者が合意して信託を終了させることもできますが、委託者と受益者は、受託者にとって不利な時期に信託を終了させたことにより生じた受託者の損害を賠償しなくてはなりません。
受託者と受益者が同一人物の場合
信託では委託者と受益者が同一人物であっても問題ありませんが、受託者と受益者が同一人物である契約を結んだ場合、その状態が一年間継続した後にその信託は終了するものと信託法で定められています。
特定財産承継への活用
信託は、信託財産に指定した特定財産の次代への承継に活用できます。信託が終了すると受託者は信託財産の中から信託事務に関する清算を行います。清算が終わった後の残余財産は、信託契約で残余財産受益者又は残余財産帰属権者に定められた者に帰属します。すなわち、委託者が特定の者を残余財産受益者又は残余財産帰属権者に定めることで委託者は自分が望む財産承継をすることができます。
残余財産受益者又は残余財産帰属権者が信託契約で定められていない場合、残余財産は委託者又は委託者の相続人に帰属します。そのため、委託者の死亡が信託の終了事由であり、且つ、残余財産受益者又は残余財産帰属権者が信託契約で定められていない場合、残余財産の帰属は相続人間での遺産分割協議により決定されます。
その他
信託の監督
信託期間中の信託事務の執行に関し、委託者及び受益者はそれぞれ受託者を監督することができます。また、信託契約の中で信託監督人又は受益者代理人が定められたときは信託監督人及び受益者代理人は受益者に代わって受託者を監督することができます。受益者が複数人存在する場合、信託監督人は受益者全体を代理することができますが、受益者代理人は複数いる受益者のうちの特定の一人を代理します。これが信託監督人と受益者代理人の違いです。
公正証書による信託契約
信託契約書を公正証書化して信託契約を締結します。信託契約書の公正証書化は、多くの銀行において信託口口座開設の条件とされています。
遺留分
信託終了時に残余財産が特定の人物に帰属することになるため、信託を終活に利用する場合、委託者の相続人の各遺留分について配慮が必要です。
まとめ
長くなりましたのでここまでにしたいと思います。今号の記事は、信託契約の構成を説明しました。今号のポイントを以下にまとめます。
次号の記事は、終活対策としての信託制度の活用と後見制度との併用という側面から信託制度を解説します。
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