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大家業の相続・承継と不動産管理会社設立

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高齢の親が所有するアパートの経営管理の代行と将来の相続を見据えて不動産管理会社を設立するのはありか

 第一次ベビーブーマーの方々が80歳代を迎えようとしているなか、ベビーブーマー世代の親御さんの高齢化に伴う体力気力の衰えを心配しているお子さんは多いことでしょう。この世代の方は自営業の方も多く、少額の国民年金を補うためにアパート経営をされている方も多いでしょう。親御さんがアパートを個人事業として経営している場合、子供としては親が病気で入院したり、認知症の症状が現れてしまったりしてアパート経営が続けられなくなってしまったらどうしようと心配ですよね。
 親の資産管理と将来の相続の対策という目的のために不動産管理会社の設立が役に立つか2023年に私が調べたこと及び考えたことをご紹介します。どんな場合でも私の考えが正しいとは思っていません。アパートの立地や部屋数などの条件によって状況は異なってくると考えています。あくまでご参考としてお読みください。また、以下の考察は既存のアパートの管理についての話です。相続対策のために親の土地にアパートを建てる話を期待されていた方は、期待を裏切って申し訳ありませんが、ここで読むのを止めてくださって結構です。

 不動産管理会社に限らず、会社を設立することのデメリットとしては以下の事項が挙げられます。

  1.  赤字でも法人住民税(最低7万円)を支払う必要がある
  2.  税の申告が難しいので税理士を雇う必要がある(年間30万~100万円の顧問料)
  3.  社会保険料が増える
  4.  事務負担が(人的にも金銭的にも)増える
  5.  会社を設立しようとしている人が会社員の場合、副業に関して会社との色々な手続きが必要になる

先にデメリットを紹介しましたが、会社を設立することのメリットとしては以下の事項が挙げられます。

  1.  給与所得控除の適用
  2.  所得税よりも法人税の最高税率の方が低い
  3.  退職金、保険等の認められる経費が増える
  4.  所得を分散できる
  5.  対外的な信用を得られやすい

以降の段落では不動産管理会社を設立することのメリットとデメリットを資産管理や相続対策の面から考えます。

資産管理及び相続対策における不動産管理会社設立のメリットとデメリット

不動産管理会社設立のデメリットとしては

  1.  法人へ不動産を移転したときに不動産取得税の負担がある
  2.  ローンを組んでアパートを建設していた場合に相続税対策にならない可能性がある

ことが挙げられます。逆に、不動産管理会社設立のメリットとしては

  1.  高齢のアパートオーナーに代わってアパートの経営管理ができる
  2.  アパートの利益を社員又は株主に分散し、アパートオーナーの利益を少なくすることでオーナーの死去による相続税の負担額を軽減できる
  3.  設立した不動産管理会社に家賃を払い込むように賃借人と(契約更新時に)契約することでオーナーの将来の銀行口座凍結の影響を受けずに家賃を受け取ることができる
  4.  設立会社を株式会社とした場合、設立会社の株式を遺産分割に使用できる

ことが挙げられます。上に挙げたように、不動産管理会社を設立すると費用がかかりますが、アパート経営の安定という点では利点があるように見受けられます。ありきたりの結論ですが、不動産管理会社の設立にメリットが有るか無いかは賃料収入によると言えそうです。

不動産管理会社がアパートを管理するときの方式

この段落では、不動産管理会社を設立してアパートを管理する場合にどのような管理方式を採ったらよいか考えてみます。不動産管理会社によるアパート管理の方式として、以下の3方式が挙げられます。

方式1:管理運営方式
 不動産管理会社としてアパートの全賃料の5%程度を管理料としてアパートオーナーから受領して賃料の集金、アパートの清掃、賃借人からの苦情受付等の管理業務を行う。残りの賃料等は、全てオーナーの収入となるため、相続税負担額の軽減効果が低い。
方式2:一括転貸方式
 不動産管理会社としてアパートの全室をオーナーから一括賃借し、それらの部屋を一部屋ずつ転貸する。転借人から得られる賃料とオーナーに支払う賃料の差額及びオーナーからの管理料が会社の収入になり、会社の経営資金になる。オーナーに支払われる金額によっては相続税負担額の軽減効果が低い。
方式3:不動産所有方式
 不動産管理会社としてアパートの所有権をオーナーから取得し、部屋を賃貸する。賃料収入で管理会社を経営する。3方式の中では相続税負担額の軽減効果が一番高い。不動産の所有には不動産取得税がかかるため、アパートの建物だけをオーナーから取得し、地代をオーナーに払ってもよい

 相続税対策という観点から、上記の方式の中では3の不動産所有方式での不動産管理が目的に適っていると考えます。方式3では、会社設立後、アパートの建物部分をオーナーから購入するための契約と土地部分をオーナーから賃借するための契約をオーナーとの間で締結します。オーナーに払う地代の額を安く設定するとオーナーから不動産管理会社への利益供与として課税される可能性があるため、「土地の無償返還に関する届出書」を税務署に提出することで課税されないようにします。土地の賃貸借契約書の中には「土地の無償返還に関する届出書」に対応する条項を入れ、契約が終了したときにはその土地を無償で所有者に返還することを約束します。

 しかし、アパート建設時のローンが残っている場合、注意が必要です。アパートの建物部分にも抵当権が設定してあるときは、その抵当権者(銀行など)に確認が必要です。新オーナーである会社が残債を一括で支払うか、あるいは旧オーナーについて抵当権を抹消したうえで新オーナーが新たに抵当権設定者となって借金を銀行に返済していくことになります。もっとも、相続税負担の軽減を目的として会社を設立するのですから、親(旧オーナー)の生前に親の負債を引き受けてしまうと親のプラスの資産が増加し、結果として相続税の額が増加してしまいます。この様な場合、節税を目的とした不動産管理会社設立自体に意味がなくなってしまうため、親にアパートの所有権を持たせたまま信託や任意後見契約で親のアパートの管理を含む財産管理を行うことを目指したほうがいいと考えます。

 以上、アパート経営者である親の資産管理と相続対策を目的として不動産管理会社を設立しようかどうか考えている方を対象として、会社設立決定に関して考慮すべき点を説明してきました。会社を設立すると、その存続だけでも資金と労力が必要です。人間の寿命が長くなって親の財産を受け継いだときは本人も高齢者でお金も気力も無いという状態ではとても会社を維持できるものではないと思います。私の結論は、節税だけを目的としているのであれば個人事業のまま大家業を続けたほうがよいというありきたりのものです。しかしながら、親から受け継いだアパート経営から始めて事業を拡大していきたいという意欲と計画を持っている方であれば不動産管理会社の設立も意味があると考えます。会社設立についてはこちらより一連の記事をご覧ください。

まとめ

 個人事業主は、売上高が年1000万円以上、且つ、その売上から得られる所得金額が400万円以上見込めるようになると会社設立のメリットがデメリットを上回り、会社設立(法人成り)を考え出すと言われています。しかし、会社を存続させるだけでも費用がかかることから、賃貸収入がそれほどの額ではない場合は会社設立が逆に負担になってしまうため、このような場合では親の資産管理と相続対策には任意後見契約や民事信託及び遺言といった別の方法を考えたほうがよいと言えます。逆に、賃貸収入が多ければ、資産管理と相続対策も含む会社設立のメリットを享受できる可能性が高くなります。

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