住宅用地の課税標準の特例と空き家
住宅用地についてはその土地に居住する人の税負担を軽減する主旨で、その課税標準となる額を固定資産課税台帳に登録されている価格の6分の1又は3分の1とする住宅用地に対する課税標準の特例が適用されてきました。しかしながら、社会環境の変化によって都会に人が集まるようになると、家屋が土地の上にあったほうが固定資産税が安くなるため、親が亡くなった後の故郷の実家を空き家として放置する事例が増えてきました。そのような放置された家屋は、周囲の住環境を悪化させる原因となり、その結果として周囲の土地の資産価値を毀損し、結局は相続した不動産を売ろうとしても売れないような事態にすることが考えられます。
このような事態を防ぐため、一年以上にわたって人の出入りが無い空き家を特定空家として市区町村長が指定することができるようになりました。特定空き家として指定されるとその空き家が存在する住宅用地の課税標準の特例措置が無くなります。さらに、令和5年(2023年)の法改正により、市区町村長から勧告を受けた管理不全空家についても住宅用地の課税標準の特例措置が無くなることになりました。すなわち、空き家のままにしておいたほうが得である状態が終わり、固定資産税額が増加することになります。受け継いだ土地を利用する予定もなく、ただ固定資産税を払い続けるのも嫌だという人は次の相続土地国庫帰属制度の利用を検討してみてはいかがでしょうか。
相続土地国庫帰属制度
私は東京に住んでいるのに田舎の実家を相続することになりました。実家がある町まで2か月に一度の頻度で通っていますが、正直言って金銭的にも体力的にも重荷です。どうにかなりませんか?
仕事を求めて田舎から都会に転居し、都会に生活基盤があるにもかかわらず、相続によって田舎の実家の土地を取得したが、その土地を利用することも無く、放置しているという所有者が増えてきています。そのような管理されていない土地の増加を抑制するため、国は、相続又は遺贈(相続等)により土地を取得した相続人が土地を手放して国庫に帰属させることを可能にする相続土地国庫帰属制度を創設しました。ただし、土地管理コストの国への転嫁やモラルハザードが発生しないように帰属できる土地には要件が課されました。要件は以下の通りです。
相続土地国庫帰属の申請をすることができないケース
- 建物がある土地
- 抵当権や使用収益権が設定されている土地
- 他人の利用が予定されている土地
- 土壌汚染がある土地
- 境界が不明確であったり、所有権について争いがある土地
相続土地国庫帰属の承認を受けることができないケース
- 一定の勾配・高さの崖があって管理に過分な費用・労力がかかる土地
- 土地の管理・処分を阻害する有体物が地上にある土地
- 土地の管理・処分のために除去しなければならない有体物が地下にある土地
- 隣接する土地の所有者等の争訟によらなければ管理・処分ができない土地
- その他、通常の管理・処分にあたって過分な費用・労力がかかる土地
制度の利用を希望する人は、対象の土地が所在する都道府県の法務局又は自宅住所から遠方で難しい場合は自宅から近くの法務局で相談することができますが、申請は対象の土地が所在する都道府県の法務局の不動産部門で行うことになっています。
希望者の申請を受け、法務大臣(法務局)による実地調査を含む要件審査があり、承認不承認が決定されます。審査料は土地一筆当たり14,000円です。申請が承認された場合、申請者はその土地の管理に要する10年分の費用に相当する負担金を納付します。
一筆の土地が複数の者により共有されている場合、共有者全員が共同して申請することで本制度を活用することができます。本制度は、相続・遺贈により土地を所有することになった者を対象としていますが、一筆の土地の一部の持ち分を相続等以外の原因により所有することになった者も、相続等により他の持ち分を有することとなった者と共同して申請することで本制度を活用することができます。
申請は、申請書及び添付書類を提出することで行います。申請書の書式は法務省のホームページ(https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00457.html#mokuji7)から得ることができます。添付書類の内訳は以下のとおりです。
- 承認申請に係る土地の位置及び範囲を明らかにする図面
- 承認申請に係る土地と当該土地に隣接する土地との境界点を明らかにする写真
- 承認申請に係る土地の形状を明らかにする写真
- 申請者の印鑑証明書
- 遺贈により土地を取得した場合、遺言書等の遺贈を受けたことを証する書面
- 承認申請者と所有権登記名義人が異なる場合、土地の所有権登記名義人(又は表題部所有者)から相続又は一般承継があったことを証する書面
書類(1)~(4)は全ての場合に必要であり、書類(5)と(6)はそれぞれの場合で必要です。他に、固定資産評価証明書、承認申請に係る土地の境界等に関する資料を任意で添付することができます。
申請は、相続土地国庫帰属制度の利用を希望する人が行うよう定められていますが、申請書等の作成は、弁護士、司法書士、及び行政書士が代行可能です。
以上、相続登記義務制度と相続土地国庫帰属制度について説明しました。