前号の記事では高齢者の終活対策として信託を活用するため、信託契約の基本的な構成について説明しました。この記事では信託制度が活用される局面、及び後見制度との併用について解説します。
信託の活用例
- 障害を持つ子に金銭を定期的に給付するための親亡き後の信託
- 特定の親族に財産を承継させるための受益者連続型信託
- 財産の共有状態の解消又は相続による財産の共有化の防止
- 事業承継対策
親亡き後の信託と受益者連続型信託については既に前号において説明をしています。ここでは残りの二例を説明します。
共有財産対策
財産の共有状態の解消の例としては、一筆の土地が兄弟によって共有されており、兄弟が協議してそれぞれ委託人となって共通の一人の受託者(例えば、兄の子又は弟の子)に各々の土地の持ち分を信託し、信託終了時に各々の土地の持ち分を受託者に帰属させるという信託契約が挙げられます。財産の共有化の防止の例としては、被相続人が子のうちの誰か一人を受託者として所有不動産を信託し、信託終了時にその不動産を受託者に帰属させるという信託契約が挙げられます。遺言でも死因贈与契約でもできないわけではないですが、信託であれば委託者の生存中から受託者に事務を委任することができ、さらに委託者の死後に不動産の分散を防止できるという利点があります。
事業承継対策
事業承継対策の例としては、株式会社を経営している親が子に自社株を信託するというものです。会社経営者に複数の子がいれば自身が保有する自社株が相続により分散してしまう可能性があります。信託を利用すれば後継者と考えている子に自社株を承継させることができ、さらに委託者が死ぬまで監督をしながら受託者に事務を任せることで後継者教育ができるという利点があります。
しかしながら、筆者は非公開会社である株式会社の承継であれば信託契約を結ぶまでもないと考えます。遺言でも贈与契約でも特定の子に自身が保有する株式を贈与することができます。
その他の方法として持株会社を利用する方法もあります。株式会社の経営者がその株式会社に加えて合同会社をその株式会社の持株会社として作り、自身が保有する株式会社の株式を合同会社のものとすることでその合同会社が株式会社の重要事項の決定権を持つことになります。合同会社の定款の中で株式会社の経営者の子を次代の代表社員に定めることにより、その子は株式会社の経営者兼合同会社の代表社員の死後に合同会社の代表社員になり、株主総会を経て株式会社の経営者になることができます。
信託は誰にでも有効?
信託のデメリット
ここまでの説明で信託という制度はすごく良い制度に思えてきたのではないのでしょうか。でも、信託にはデメリットもあります。主なデメリットを下に挙げます。
- 信託財産である不動産から生じた損失は、受託者の所得と損益通算できず、繰り越しもできない
- 委託者の財産を分割してそれぞれを別個の信託契約の信託財産とした場合、一方の信託財産である不動産から生じた損失は他方の信託財産である不動産から生じた利益と損益通算できない
- 信託契約の案を作成する専門家への報酬が高額である
- 受益者連続型信託は、受託者を長期にわたって拘束する
- 民事信託制度の歴史が浅いことから将来の制度改正の可能性があり、信託期間が長期の信託契約は制度改正による予期せぬ影響を受けるおそれがある
さらに、信託は終活・相続に役立っても相続税の節税とは無関係であることをよく理解してください。
信託が有効な場面
以下に筆者の個人的な意見を述べます。そのおつもりでお読みください。信託の最大の特徴は、受託者に財産を託して管理・運用させることです。筆者は、運用して運用益が出るような財産を信託することが信託の一番の効果を生み出すことであると考えます。ただ単に財産を管理してもらうことを目的とするならば、それは信託ではなく任意後見で達成可能です。会社の事業承継が目的であれば信託以外の方法で対処することができます。筆者は、信託が有効な場面は、会社形態ではない個人事業の事業承継、特にアパート又は駐車場などの不動産貸付業の事業承継ではないかと考えます。